2008年2月8日金曜日

iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス

プレゼンテーションは君のため」という投稿でも書いたように、プレゼンの達人と言われてすぐに思い浮かぶのはスティーブジョブズだ。毎年行われるMacWorldでのプレゼンなど芸術に近い。ただ、知人などを通じて、漏れ伝わってくるのは、そのプレゼンの影には本人とスタッフによる度重なるリハーサルがあり、場合によっては罵倒される部下がいることなど。また、製品開発においてもマイクロマネージメントとか(本書では「現場介入型」と綺麗に書かれているが)、職位乱用とさえ言いたくなるほどの口をうるさく出してくることでも有名だ。

iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネスではそのスティーブジョブズがアップルを立ち上げてから復帰し、今に至るまでのさまざまなエピソードを紹介し、そこから分かる彼の経営術(という言葉が似合わないのだが)を探っている。

本書の中でも「最高のベータテスター」であると評価される彼であるが、本当に優れた技術を生み出している会社であれば、どの会社でも彼のように製品を誰よりも愛するために、初期から自分で触り、いろいろと介入してくるトップはいる。マイクロソフトではドッグフードという形で社員が出荷前の製品を使うことが決まりになっていたが、Windows Server 2003を開発しているときなどは、来日した開発トップのVP(Dave Thompson)がラップトップPCにWindows Server 2003のベータ版を入れているのには驚いた。私ももちろんその製品の開発に関わっていたのだが、ラップトップPC(ノートPC)にはさすがにインストールしていなかった(部下はしていたかもしれない。ここで懺悔しよう、私はデスクトップPCには入れていたけど、ノートPCには入れてなかった。ごめんなさい)。製品開発のVPであれば、彼に限らず、多くの幹部が自分で使い、問題があればすぐに担当者に連絡していた。これは当たり前と言えば、当たり前だ。自分の部署が作っている製品だからだ。スティーブジョブスに近いのかどうかはわからないが、同じように厳しく介入してきていたのが、MSKKのCTOをされていた古川さんだった。Windowsクライアントの開発において、日本では広範囲なベータを行っていたが、実は一番うるさいベータテスターは古川さんだったりする。開発が技術的に困難な問題などにぶつかり安易な方向に流されてしまいそうになったときに、「それはないんじゃない」的なメールをもらったりした。正直、そう言われても、直せないものは直せないと思ったりもしたことは100回くらいあるんだが、ついつい本社の方針にそのまま迎合してしまい勝ちになるわれわれにとっては防波堤になっていただけていた存在ではあった。本書を読みながら、そんなことを思い出した。

あと、ヴェイパーウェワー(「発表はしたものの、そのまま発売まで至らなかった製品のことをハードウェアやソフトウェアになぞらえたもの」-本書より)についてマイクロソフトを例に出して解説されているが、これは私が知る限り、私の入社後は無かった。
たとえば、どこかの会社が新しく有望なソフトウェアを開発したとしよう。これを受けて、業界記者たちはマイクロソフト社にコメントを求めに行く。すると、同社の広報担当者は「実はうちも、もうすぐ同種の、しかしもっと優れた製品を出す予定なのです」と答えるのだ。
<略>
 もちろん、この時点までマイクロソフト社にそんな開発計画など存在していない。しかし、即座に開発チームが結成され、オリジナル製品を徹底的に研究して類似製品を作り上げ、あたかも以前から準備されていたかのように発表してしまう。それがたとえ元になった製品よりも機能的に優れた部分がなくても、マイクロソフト社のブランド力と販売力で市場を席巻し、オリジナル製品は忘れさられたり、新興企業の場合には、そのまま廃業を余儀なくされることもある。
Windows for Pen Computingとかのことのか。私はその当時のことは知らないのでなんとも言えない。っていうか、知っていても言えない ;-)。

アップルやスティーブのファンは(知っていることも多いかもしれないが)必読。そのほかの人もハイテク(死語か?)製品の企画やマーケティングを行う場合には役立つことも多いはず。ただ、パーソナルコンピュータの歴史に関係していることが多いので、あまりその分野に詳しく無い人には分かりにくいところがあるかも(文章は分かりやすいんだけど、前提知識がないとちょっとつらいかも)。

iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス (アスキー新書 048) (アスキー新書 48)iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス (アスキー新書 048) (アスキー新書 48)
大谷 和利

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