私は社会人になってから、基本的にずっとソフトウェアの開発を行っている。社会人に成りたてのころは特定のお客様へのシステム開発を担当していたが、その後、そのシステムを汎用パッケージにし、さらには巡り巡ってOSの開発まで行うようになった。一昨年の2度目の転職で、ウェブアプリケーションを担当するようになったのだが、どのようなソフトウェアを開発するときも、常に自分の担当するソフトウェアのユーザビリティには頭を悩ませている。
おそらくユーザビリティスタディを行ったことのある人なら誰もが経験したことがあるだろうが、開発者の意図とはまったく違う行動をユーザーはとることが多い。この順番で選択していくだろうと考えたオプションがぜんぜん違う順番で選択されたり、そもそも気づかれなかったり。また、汎用のソフトウェアだと、ユーザーのレベルを固定することができない。その場合、いかに低いレベルのユーザーを救うか。ウィザードなどを用いることもあるが、その機能をすでに理解した人にウィザードのまどろっこしい操作をいつまでも強要することは好ましくない。
このような中、ゲーム機(ゲームコンソール)やゲームソフトのユーザーインターフェイスというのは、説明書を熟読することなく、どのようなレベルのユーザーもすぐに利用できるような工夫がされている。しかも、社会問題になるほど、熱中して利用するようになる。このようなゲームにおける開発技法を解説しているのが、「ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則」だ。「ゲームニクス」とは著者のサイトウアキヒロ氏の命名だ。
ゲームニクスは1) 直感的な操作性と2)段階的な学習効果を目的としたもので、次の四原則から成る。
- 第一原則「直感的ユーザーインターフェイス」
- 第二原則「マニュアルなしでルールを理解してもらう」
- 第三原則「はまる演出」と「段階的な学習効果」
- 第四原則「ゲームの外部化」~ファミスタで読み解く
なお、本書ではDSやWiiの成功を例としてゲームニクス理論が解説されているが、DSの競合はPSPではなく、経路依存性だったというのはそのとおりだ。経路依存性とは
過去の出来事が現在の行動に影響を与えることだ。
二画面+タッチペンという操作スタイルが反発を招いたのは、誰もが「両手で握って遊ぶ」スタイルに慣れ親しんでいたからである。
膨大なインストールベースというのは時としてイノベーションの阻害要因になるが、このDSの例も同様のケースであろう。これに対して、任天堂がとったのは次の方法だ。
一度ゲームを遊んでもらえば、すぐに内容が理解できて、絶対おもしろいと感じてもらえる製品にすることです。これができなければDSプロジェクトは瓦解します。ユーザーの第一印象がDSのすべてを決めるのです。本書では、さらにゲームニクス理論でiPodやMixiなどのヒットも説明し、後発組がシェアを獲得するための「ブルーオーシャン戦略」にマッチするのがゲームニクス理論だとしている。
そのために徹底的に追求されたのがゲームニクスの観点でした。ゲームニクスの重要性を正しく理解し、それを豊富に取り込んだ製品開発を行ったからこそ、二画面+タッチパネルという奇抜な操作系が、逆にDSならではの長所となりました。
どのような製品にも応用できるものではないかもしれないが、技術革新が早い分野の製品などでは、かなり参考になるのではないだろうか。
参考: ブルーオーシャン戦略(Wikipedia)
ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則 (幻冬舎新書 さ 3-1)
サイトウ アキヒロ
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