連続しての投稿になるが、こちらも佐々木俊尚さんの書籍。またまた、贈呈いただいたもの。佐々木さん、いつもありがとうございます。
本書は「検索」と言われている技術に再注目し、まだイノベーションが起き得るものであること、また日本発の検索技術が世界に向けて飛び立つ可能性について書かれている。直前に感想を書いた「ネット未来地図 ポスト・グーグル時代 20の論点」以上に立場上感想を書きにくい内容だ。
まず、検索がまだまだ成長過程の技術であるということには激しく同意する。私は会社では、まさにその検索の担当者なのだが、そのことを話すと人によっては「何することあるの」というようなキョトン顔をする人がいる。彼にとっては、もはや検索は枯れた技術に見えるのかもしれないが、そんなことはまったく無い。日々新しい技術が投入されている、いまだに最も熱い技術領域の1つだ。
その中で本書は日本ならではの検索についてスポットを当てる。経済産業省が進める「情報大後悔プロジェクト」、もとい「情報大航海プロジェクト」は当初「グーグル対抗検索エンジンを開発」などと言われたため、誤解を受けていたようだが、そうではなく、日本の得意分野である日本語のデータマイニングやリアルワールドの情報を吸い上げるセンサーネットワークやP2Pなどからのデータに対しての検索技術を開発している。あまり多くを語れないが、検索がウェブのためだけでないというのはもっともであり、日本のベンダーの技術が生きる部分も多くあるのも同意する。
それよりも、本書の中で、特に最後に書かれている日本のIT業界の歪な構造の是正こそ政府には是非進めてもらいたい。本書の中では、新しいネットベンチャーの登場や90年代後半に終身雇用制が崩れたことにより、状況は改善されつつあるとしているが、逆にドットコムバブル崩壊のトラウマがいまだ残っていて、優秀な人間がそもそもコンピュータサイエンスに興味を示さなくなっているという事実もある。3Kと呼ばれる土建屋のような業界構造も嫌われる理由だ。いかに魅力的な業界であるかをわれわれは結果を持って示していかなければいけない。あと、若い人だけでなく、大企業の研究所で決して高くない給料でいつ世の中で使われるかもわからない技術の研究(研究テーマの話ではなく、官僚的な組織でせっかくの良い技術が外に出ない構造のことを言っている)をしているような人。たくさんいるのは知っている。寄らば大樹のつもりかもしれないけど、大樹だって倒れる。一度しかない人生なんだから、社会に影響を与えるようなことをしたらどうだろう。いまだに大企業の研究所が優秀な人材を死蔵させているのがこの業界の問題だと思う。この「情報大航海プロジェクト」だけでなく、そういった人たちに外に出てきてもらうような(別に転職や起業しなくてもいい)ことを促進するようなことを大企業や国には期待したい。
ところで、本書の内容はかなり「ネット未来地図 ポスト・グーグル時代 20の論点」とかぶる部分がある。たとえば、こちらの書籍でもNTTドコモのマイライフアシストサービスは紹介されているし、リコメンデーションについての解説もある。本書が検索にフォーカスしているとは言え、「ネット未来地図 ポスト・グーグル時代 20の論点」でも検索に関するトピックが多くカバーされていたので、重なるのは仕方ないところか。ただ、検索に関するトピックについては、本書のほうがさらに詳しく解説されているので、両方読むとさらに理解が高まるだろう。両方読む読者は多少既視感(既読感というほうが適切か)をいただくことになるだろうが、出版社が異なるから、続編にすることもできなかったのだろう。仕方ないところか。もっとも、こちらだけ読む読者も多いだろうから、私のようにここ数年の佐々木氏の書籍をほぼすべて読破しているものでもなければ気にならないかもしれない。
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佐々木 俊尚
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