昨年、「国家の品格」を読んだ。「若き数学者のアメリカ」などでも知られる数学者の藤原正彦氏による日本国家論だ。小学校での読み書き算盤の復活を説くなど、現在の教育にも一石を投じた。この本の中で、数学など理系の学問が実は「美」への鋭い感覚が基礎となっていることを論じている。
「博士の愛した数式」を読んだとき、藤原氏の言う「数学の美しさ」と通ずるものがあるなと感じたのだが、実は筆者の小川氏は執筆にあたり、藤原氏に取材をしたそうだ。その模様は文庫版「博士の愛した数式」の解説にも書かれている。
そのように一種の共同制作者の関係の二人により数学の美しさを解説したのが、世にも美しい数学入門だ。
世にも美しい数学入門
藤原 正彦 小川 洋子
本書では、「博士の愛した数式」の中のいくつもの数学の世界が二人の対話によってさらに解説されている。実際のイベントでの対談がベースになっているようで、二人の肉声が書籍に納められている形だ。「博士の愛した数式」に出てくる「友愛数」や「完全数」について改めて解説されていたり、「フェルマーの予想」に対して日本人が果たした功績が紹介されている。
「博士の愛した数式」における数式の世界を好きになった人には、さらに深い数学の持つ魅力を知るには良い書だ。話し言葉で語りかけるようになっており、さらに数学に関しては一般人としての小川氏が対談相手となっているので、非常に安易に紹介されている。これは一般書としては親切な構成だろう。だが、対談形式のため、ページ数の割りに書かれている内容は浅い(文字も大きいため、ページ数以上に実際のボリュームはかなり少ない)。ボリュームの少なさから考えると、760円という価格が妥当かは疑問だ。中高生などにも読んでもらうことを考えるならば、文字を小さくしても良いので、500円以下で提供したほうが良かったのではないか。余計なお世話か。
実は、私は大学進学時、数学科に進もうかと考えたことがあった。高校に早稲田大学から派遣されていた1人の講師の数学の授業に魅せられたからだ。「博士の愛した数式」と、この「世にも美しい数学入門」を読んで、ふとその講師を思い出した。