博士の愛した数式
小川 洋子
ようやく博士の愛した数式を読んだ。実はこの話は、昨年、すでにコミックで、ラジオドラマCDで、さらに正月にDVDで、読んだり、聞いたり、見たりしていた。順序が逆と思うかもしれないが、アマゾンのカスタマーレビューで「映画版(DVD)はストーリーが多少異なるので、小説を先に読んだ後だと少し違和感がある」というようなコメントを見たので、小説が後回しになってしまった。
結果から言うと、映画(DVD)を先に見て、正解。もしくは、違和感があるのを覚悟して、すべてに先立って、小説を読むほうが良い。コミックやラジオドラマCDは原作に忠実であるが、すべてをカバーはできていない。映画は演出の都合だと思うが、中のエピソードが違う。映画は映画で味があるが、小説とは多少世界観が違う感じがした。
著者の小川洋子氏。恥ずかしながら、今回初めて読んだ。なかなかのストリーテラーだ。数学と野球という2つの異なる世界を見事に結び付けている。80分しか記憶の持たない数学者という難しい設定の中での展開は見事だ。すでに、コミックなどで展開を知っている私でも、改めて小説で引き込まれてしまった。個人的には、実は、本書の主役は江夏なのではないかと思う。偉大なるスポーツ小説ではないか。不思議かもしれないが、なぜか村上龍氏の「走れ!タカハシ」を思い出してしまった(これは広島カープにいた高橋慶彦氏をモチーフに用いた名作)。
ところで、私の理解力が足りないのか、いまだにきちんとしたイメージがつかめていないのだが、「80分しか記憶できない(80分で記憶がリセットされる)」というのはどういう状況なのだろうか。一番大事なこの部分がイメージできていないというのは、基本的な読解力に欠けているといわれても仕方ない。80分でリセットされるとは、80分たったら、ゼロに戻るのか。それとも、保存されている記憶域が80分ごとにシフトされているのか。最初、前者だと思っていたのだが、それでは日々の生活上のエピソードの辻褄が合わないことに気づいて、後者だと思うことにした。だが、それだと今度は最後のエピソード(読んでいない人もいると思うので、ここでは書かない)に矛盾が生じるように思う。こんな大事な基本的なこともわからなかったなんて、ちと情けない。
博士の愛した数式
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