一生モノの人脈力
キース・フェラッジ タール・ラズ 森田由美
ブログの中で、古川さんは次のように書かれている。
一生モノの人脈力、キース・フェラッジ、ランダムハウス講談社古川コメント: 欧米人の人脈って、こういうカラクリなのねという彼らの手口を学ぶには良いかも
確かに、欧米には自分のネットワークを仕事にもプライベートにも最大限に活かしている人間が多い。私は前の会社を退職する際に、"Keep staying in touch!"とメールに書いて、世話になった連中に送ったのだが、本当に退職後も"Stay in touch"してきてくれる連中が多く、良い意味で驚いている。外資系で働き続ける以上、欧米人の繋がりの背景を理解するのは意味あるだろう。
本書では「これでもか」というほどに人脈作りの重要性とさまざまなTipsが載せられている。載せられているTipsを全部実践することは鼻から考えていないし、そもそも日本人が日本でこんなことをやったら、怪しげな新興宗教かマルチ商法にでもひっかかったのではないかと疑われるのがオチだろう。少なくとも、無精者の私がやりだしたら、間違いなく疑われる。ただ、本書に書かれている人脈作りのTipsのいくつかは基本的なコミュニケーションの基礎ともいえるものも含まれており、いくつかを実践できるだけでも、人付き合いを良くすることはできるだろう。たとえば、筆者は会話の中で相手の名前を呼ぶ習慣をつけると良いと言う。相手の話をきちんと聞いていることを相手に伝えるメッセージになると言う。これなどは1例であるが、営業マンなど人とのコミュニケーションが肝の人は得るところは多いのではないだろうか。
しかし、私にとっては、やはりノウハウ本として読むよりも、このようなことを欧米人が意識しているということを知ることのほうが重要だった。まだ、昨年から読み中の別の本で、米国の格差社会を解説しているのだが、それとあわせて読むと、米国人の行動の背景などが良くわかる。これについては、その本が読み終わった際にでも、ここに書こう。
読みやすいし、Tipsのいくつかは日本にいる日本人でも役立つ。さらに、コミュニケーションスキルの自己啓発本としても読める。1,800円という価格に見合うかは疑問だが、読んで、時間を損したとは思わないだろう。
ところで、本書でもSix Degrees of separationと呼ばれる逸話が紹介されている。ネットワーキングの話では良く出てくるものである。
俗に、六人たどれば世界中のどんな人ともつながると言われる。それというのも、世の中には他の人よりはるかに広い人脈をもつ特別な人たちがいるからだ。
ここでは彼らのことを、「スーパーコネクター」と呼んでおこう。
これは昨年読んだ「グーグル・アマゾン化する社会」(森健著)の中でも、グーグルのSNSであるオーカットの説明のところで解説されている。オーカットで人と人との繋がりを表わす機能が6人までしか対応していない説明なのだが、次のように書かれている。
実は、オーカットが六人までしか表示しないことには、理由がある。それは、これまで社会学の分野で研究されてきた定説、「六次の隔たり」に根拠を置いているためだ。六次の隔たりとは、「どんな人でも六人を介せば、世界中の誰とでもつながる」という説だ。
これは、一九六七年、米ハーバード大(当時)の社会学者スタンレー・ミルグラム博士が、とある実験をもとに論文で明らかにした説だ。
その実験とは、カンザス州とネブラスカ州に住む無作為の住人三〇〇人に対して手紙を送り、彼らとはまったく面識のないマサチューセッツ州ボストンに住む、ある株式仲買人に手紙を転送してほしいと依頼するというものだった。
依頼された三〇〇人の人たちは、その株式仲買人の住所を知らない。そのため、その人に近いと思われる親しい人に対して、転送を繰り返してほしいと依頼した。すると、実験の結果、手紙は平均で六人の人を介することで、株式仲買人に届いたのである。
もっともらしい解説なのだが、残念ながら、この説は定説ではない。この実験で、平均6人の人を介することで届いたのは事実なのだが、実はかなりの割合の手紙はそもそも届かなかったらしい。本書では、きちんと「俗に」と書かれているし、本書の主旨とは関係ないが、気になったので指摘しておく。この件については、「六次の隔たり」の誤解に詳しい。
[2007年2月11日 更新] ミルグラムの実験についてはBBCの記事でミルグラム自身の発言がわかる。