2007年1月14日日曜日

「感性」のマーケティング 心と行動を読み解き、顧客をつかむ

数日前に書いた計画外消費で、
「気持ちよく、もう一品買いたい」と思わせるのが重要
「右脳的な感覚の部分を取り入れることが重要」
と書いた。このように人の感性に訴えかけて、顧客をつかむための手法や具体例が書かれているのが、本書だ。

「感性」のマーケティング 心と行動を読み解き、顧客をつかむ
小阪 裕司
4569657176

実例をちりばめながらの解説なので、馴染みのないテーマにも関わらず、大変読みやすい。また筆者の豊富な実績からくる自信は読むものを安心させる。感性に訴えかけるというマーケティングアプローチはともすれば、ごく当たり前のことを行うだけであったり、本当に効果があるのかと疑問を持たれるようなものもあるかもしれないが、本書で紹介されているのはすべて実例であるため、非常に説得力がある。

ただ、本書で言うマーケティングとは、営業企画や販売戦略をさす。製品企画ではない。私は製品の企画に役立つかと思っていたが、本書で紹介されている手法を製品のデザインなどでそのままずばり使えるわけではない。もちろん、販売にも製品企画にも両方に通ずる内容も多くあるため、まったく無駄というわけではない。

いくつもの手法があるなかで、私の経験からも最も納得がいったものが、「人間的なコミュニケーションを行い、顧客コミュニティを育成する」という取り組みだ。

昨今、多くの企業がユーザーグループやコミュニティなどを設立し、そこでの活動を推進している。これは、単なる企業側からの情報伝達から、感性に訴えかけるための、情報の共有にフォーカスを移しているためだ。メッセージを伝えるだけでなく、自分の想いを共有し、共感してもらうことが人間的なコミュニケーションには大事だ。そのため、企業は情報を単に伝達するだけでなく、その製品やサービスの企画から製造に至るまでのすべての想いに共感してもらう必要があるのだ。

IT企業などで、最近、「エバンジェリスト」というタイトルの職種が一般的になってきた。「エバンジェリスト」、すなわち伝道師だ。想いを伝道する。これも想いに共感してもらうための企業側のアプローチなのだろう。

筆者は、この「人間的なコミュニケーション」のためには次のものが必要だと説く。
  • 単純接触の原理: 簡単に言うと、間を空けすぎないこと。「個体間の親密さは、接触回数、接触頻度が多ければ多いほど増す」らしい。
  • 自己開示: 自分のことを語ること。「プライベートなこと、自分のまわりに起きた出来事、ファッションの好みや音楽や映画の話といった表面的なものから、仕事の悩み、家族の問題など、いろいろなものがある。」「自己開示することによって、お互いの精神的距離が近くなる」
これは以前読んだ「一生モノの人脈力」で書かれていたネットワーキングのコツにも通ずる。なお、現在ならば、SNSやブログなどを活用することもできるだろう。

本書に1点だけ改善を求めるとすると、文章の読みやすさだ。文体自身は平易でわかりやすいのだが、文章にやや散漫で読みにくいところが見受けられる。ただ、すごく気になるほどではない。

ところで、学究的なアプローチとしては、感性工学という学問があるようで、日本にも日本感性工学会と呼ばれる学会がある。なかなか面白そうな学問だと思うが、学会の英語名が「Japan Society of Kansei Engineering」となっている。「Kansei」って世界で通用する用語なのか?!