2008年3月16日日曜日

洗脳の楽園 ―ヤマギシ会という悲劇

洗脳の楽園 新装版―ヤマギシ会という悲劇
洗脳の楽園 新装版―ヤマギシ会という悲劇

カルトの子―心を盗まれた家族という本を以前読んだことがある(「カルト」の正体。を紹介したときにも少し触れた)。その中でも紹介されていて、ずっと読みたいと思っていたのが、「洗脳の楽園 ―ヤマギシ会という悲劇」だ。初版が出て以来、新装版が出たり、文庫化されたりしていたのだが、どれも絶版のようで、なかなか読む機会に恵まれなかった。今回、偶然ブックオフで見つけたので、迷わずに購入した。

本書の初版が1997年発行だから、もう10年以上前の著作になるが、本書では「ヤマギシ会(幸福会ヤマギシ)」が行っていた特講(とっこう)や研鑽会の洗脳的な部分がレポートされている。「当時の」と書いたのは、この本が発売されて10年ほど経っており、状況が代わっているかもしれないからだ。Wikipediaの記述でも次のように書かれている(太字は私が付加した)。
ヤマギシズムでは財産共有が鉄則であるため、金額は決まっていないものの全ての私有財産の供出が要求される。そのため過去にたびたび財産返還を巡り訴訟が起こされたが、現在は最高裁の判決を受け、財産返還のためのルールが作成されたようである。また、国税庁や地方自治体の調査により、「税金申告漏れ」「建築基準法違反」「消防法違反」などが行われていたことが明らかになっており、ヤマギシ会は従来の路線を修正して社会との折り合いを模索している状態である。最近は近隣の小学校の環境学習や農業体験の場になったり、近隣の高校の野球部の練習の場を提供したりと公の活動にも使用されているようである。
実名を出しているブログで、かつ自分の体験や経験に基づかずに、特定の宗教や宗教的な性格を持つ集団を批評するとろくなことが無いので(「ビデオを見に来い」と強引に誘われたこともあったし)、ヤマギシについて書かれている本書の内容が事実かどうか別として、そのような団体があったと仮説しての感想という前提で読んで欲しい。

まず経験的に言えるのだが、全員が前向きに明るく親切な集団というのはろくなもんじゃない。某ネットワークビジネス/MLMの会合に参加したことがある(もちろん知人からの勧誘)のだが、事前に内容は知らされず、参加してみた会では成功体験が次から次に語られ、まるで一人でも多くの人に参加してもらうことが人類救済かであるように、熱心に、だが満面の笑みを絶やさずに勧誘を受けた。正直、吐き気がした。間に入ってくれた知人の顔をつぶすことができないので、最後まで会場にはいたが、あの時勧誘してくれていた人の目はあきらかに普通じゃなかった。本書で語られるヤマギシの特講でも、参加者が放たれた瞬間(解離状況になった瞬間)も同じなようだ。目が変わるという。精神医学的な分析は本書で詳しくされているので、そちらに譲るが、いくら好奇心旺盛な私でもレポートを読むだけで十分だ。現場にいたいとは思わない。

人格改造セミナー自己啓発セミナーでも同じような手法が使われていることは、潜入ルポである「洗脳体験」を読むと良くわかる。このようなセミナーや会合に行きたいとは1ビットたりとも思わないのだが、そこで使われるテクニックには大変興味がある。誤解を受けることを覚悟で言うと、このような洗脳テクニックは組織運営や会社経営などで有効だろう。有効という言い方はよくないかもしれない。だが、企業であってもNPOであっても組織というのは宗教的な色彩を持つ。カリスマ経営者や創業者の中には宗教の教祖でもおかしくないような人がいる。このような人たちや企業/組織と関わることは避けられない。そのときのために、人事掌握とか組織運営という名のもとに行われている使われている可能性のあるテクニックは知っておきたい。

個人的には「カルト」の正体。でも書いたように、カルトの定義である「反社会的」かどうかというのも、マジョリティである「社会」という巨大な団体が決めたに過ぎないので、立派な大人が自分で判断して決めたなら、どのような組織に属そうがご自由にどうぞと思う。犯罪組織に入ろうとしたら周りは当然とめようと思うだろうから、そこでの軋轢はあるだろうが、そこはもはや家族の問題だ。問題は本人に正常な判断ができなくなっていることと子供が犠牲になることだろう。繰り返しになるが、カルトの子―心を盗まれた家族や本書に書かれている子供の状況はとても正視できない。ヨーロッパなどではカルトの定義がきちんと行われており対策マニュアルもあるという。それに比べると、日本の遅れが目立つ。それは島田裕巳氏が「日本の10大新宗教」で書いているように、日本が明治以降「無宗教」であると変に誤解してしまった(詳しくは以前の投稿を参照)ことと無縁ではないだろう(なお、島田氏は以前ヤマギシに参画していた)。

なお、本書は取材過程における問題点がヤマギシを考える全国ネットワークによって指摘されている。