「グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する」の佐々木 俊尚氏が書いた「ネットvs.リアルの衝突―誰がウェブ2.0を制するか」を読んだ。
期待を裏切られた。悪い意味ではない。
ネットvs.リアルの衝突―誰がウェブ2.0を制するか
佐々木 俊尚
ウェブ 2.0とサブタイトルにも書かれているので、またグーグルやアマゾンなどのネット動向についての本かと思ったのだが、ウェブ 2.0について書かれているのは後半のごく一部。二番煎じ、三番煎じを狙ったウェブ 2.0本ではない。推測だが、タイトルかサブタイトルにウェブ 2.0と入れると売り上げが伸びが期待できるので、こうなったのではないだろうか。そんなことをしなくても、中身で勝負できる本なのに。
では、何の本かと言われると実は説明に困ったりする。
前半はWinny裁判についてのドキュメンタリーだ。Winny開発者である金子氏の逮捕劇の様子から、開発当初の模様や開発に至るまでの背景などを書く。開発を開始した当時の金子氏の2ちゃんねるの書き込みなども収録されている。普及してからのWinnyしか知らない私にとっては貴重な情報だ。
Winnyの開発者である金子氏は当初、思想犯としての自白のようなものをしていたようだが、途中からあくまでもソフトウェアの研究目的であるというようにトーンが変わったようだ。佐々木氏はその心情を理解しつつも、サブカルチャとしてのインターネットを支える人間として金子氏にはあくまでも思想犯として裁判を闘って欲しかったようだ。本書にはその思いが、暗に明に込められている。
本書でもWinnyの仕組みについては簡単に触れられているが、Winnyの技術については、金子氏自らが書いた書籍がある。
Winnyの技術
金子 勇 アスキー書籍編集部
こちらには、Winnyについての解説を通じて、P2Pの基本的なアーキテクチャについても紹介されている。金子氏が参考にしたとされるFreenetとの比較もされている。P2P技術に興味のある人は読んでみると良いだろう。
話がずれたが、本書(ネットvs.リアルの衝突)の中で、金子氏が2ちゃんねる上で、「ちなみに俺ぁネットワーク系メインのプログラマじゃないんでこの程度のプログラム作れる人ならそこら辺にごろごろしてるはずだな」と発言したとされている。これは半分は真実だろう。ソースを見たことがないので、想像だが、おそらくP2Pのコア部分についてはアーキテクチャも実装も超一流ではないだろうか。Freenetなどお手本とすべき先駆者があったとはいえ、インターネットを活かした分散性と匿名性をあそこまで実装できたのはお見事といわざるを得ない。
一方で、元Windowsの専門家から言うと、Windowsのアプリケーションとしては必ずしも、完成度は高くない。使ったことのある人なら知っていると思うが、癖のあるインターフェイス、脆弱なテキストファイルベースの構成機能(テキストファイルに構成情報を書き込むのであっても、アプリケーションからのみ読み書きができるようなチェック機能を入れるべきであったろう)。このP2Pとしての完成度の高さとWindowsアプリケーションとしての中途半端な実装がWinnyによる悲劇的な状況を生んだとは言えないだろうか。
Winnyの話をしすぎているので、話を戻す。前半をWinnyについて書いた後、後半は標準化戦争、オープンソース、ガバナンス、デジタル家電、ウェブ 2.0と続く。前半のWinnyを中心とした話と比較して、後半が散漫な印象は避けられない。一環してあるのは、インターネットやオープンソースが持つサブカルチャへの熱い想いだ。また、日本という社会をインターネットやITという枠組みから見たときの危機感。それも本書を通じて訴えられているものだ。ただ、それらをメインにするならば、もう少し章立てに工夫がこなせただろう。どうにも、前半と後半のアンバランスさが残念だ。内容に似つかわしくないタイトル(とサブタイトル)も、この構成の迷走に振り回された結果か。
あと、事実を基にぐいぐいと読ませる構成は、ベテランの筆者の力量によるものだと思うが、「So, what?!」、つまり筆者としてどう考察するかの部分がもう少し欲しかったように思う。
最後、少し厳しい意見を書いてしまったが、新書にしてはなかなかのボリュームであり、読み応えは十分だ。
参考
[本館] Nothing ventured, Nothing gained. でWinnyについて少し書いている。参考まで。