2007年2月11日日曜日

次世代ウェブ グーグルの次のモデル

Web 2.0という用語はそれ自体が一人歩きしてしまい、もはや話す人や聞く人によってその解釈が変わるという状況に至っている。Web 2.0の定義としては、Tim O'Reillyの論文が参照されることが多い。確かに、その論文は示唆に富んでおり、いまだに重要な意味を持つが、もはやそれにとらわれることはないし、また実際そこで定義されたこと以外も、Web 2.0と呼ばれるようになってきている。

Tim O'Reillyの論文の翻訳:
Web 2.0の特徴の1つとしてデータを持ち、それを公開することの重要性が説明されている。"Intel Inside"のアプローチに模して解説されることの多いその特徴だが、私は実際にはデータではなく、インターフェイスの公開こそが特徴だと考える。

データそのものは門外不出であり、そのデータにアクセスするインターフェイス=APIを公開する。そのインターフェイスを利用したマッシュアップが行われることにより、そのサービスが活性化する。これが新しいウェブが成功する秘訣であろう。

たとえ、データを持つ会社があったとしても、その会社がCDやDVDなどで別の会社に販売しているようであれば、その会社はあくまでもデータを販売している会社にすぎない。それがネットワーク越しにFTPで渡されるようであっても、XML RPCで渡せるようにしていたとしても同じだ。肝は自社で一般ユーザーに対して公開するサービスを行っていることであり、そのサービスの一部を利用したいというパートナーに対してのインターフェイスを公開することが、いわゆるWeb 2.0的なやり方だろう。

このようなやり方を「地主制度 2.0」と呼ぶのが、佐々木俊尚氏の本書だ。

次世代ウェブ グーグルの次のモデル
佐々木 俊尚
4334033857


本書ではWeb 2.0のビジネスは次の2つの進化の形態があると言う。
1. すでに提供されたプラットフォームの上で、プラットフォーム提供者とWIN-WINの関係を築きながら、Web 2.0的な仕組みを利用していくという進化を選ぶ。
2. プラットフォームとしての進化を選ぶ。
佐々木氏はこの2つの形態を説きながら、1の形態だと、結局最大の利益を得るのはプラットフォームを提供する側であるとし、これは一種の地主制度だと、あるブログからの引用を含めて語る。

本書では楽天はWeb 2.0に乗り遅れてしまっているとされる。本書でも指摘されているとおり、楽天はブログもカスタマーレビューもあるユーザー参加型のウェブとなっている。にもかかわらず、旧態依然としたサービスにしか見えない。インターフェイスの切り方の問題と参加している加盟店との関係(イコールパートナーとなりえているのか?)と本書では指摘する。加盟店側の問題は私には本当のところはわからないが、インターフェイスの切り方は確かにアマゾンやグーグルのそれに見劣りする。せっかくの大量のデータが活かされているように見えない。

地主制度 2.0は本書で取り上げられているものの1つに過ぎないが、それ以外にも次世代ウェブについてのいくつかのキーワード、たとえば「無料経済」や「アテンションエコノミー」など、とともに紹介されている。純粋に読み物として面白い。いつも思うのだが、佐々木氏はさすが元毎日新聞やアスキーで勤務していただけあり、実際の取材により集めた大量の情報を元に書かれるので、説得力がある。ウェブを検索しただけでお気軽にジャーナリスト気取りになってしまう(それだけでパブリックジャーナリストって呼んじゃう人もいるみたいだ)こともある中、この取材を元にした内容には非常に好感が持てる。これからも期待したい。

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