2007年2月10日土曜日

行動経済学 経済は「感情」で動いている

いきなりだが、問題だ。
 問題1 今、あなたはテレビのクイズ番組に出演しているとする。
何題かの問題に正解し、最後の賞金獲得のチャンスがやって来た。
ドアが3つあり、どれでもいいからドアを開けるとその後ろにある賞品がもらえることになっている。1つのドアの後ろには車が置かれているが、残りの2つのドアの後ろにはヤギがいるだけだ。
あなたは、A、B、C3つのドアから検討をつけてAのドアを選んだとしよう。まだドアは開けていない。
すると、どのドアの後ろに車があるのか知っている司会者は、Cのドアを開けた。もちろん、そこにはヤギがいるだけだ。ここで司会者はあなたに尋ねた。
「ドアAでいいですか? ドアBに変えてもいいですよ。どうしますか?」
さあ、あなたならどうするだろうか。Aのままでもよいし、まだ開けられていないBのドアに変更してもよい。どちらを選ぶか?

 問題2 ある致命的な感染症にかかる確率は1万分の1である。あなたがこの感染症にかかっているかどうか検査を受けたところ結果は陽性であった。この検査の信頼性は99%である。実際にこの感染症にかかっている確率はどの程度であろうか?

 問題3 次のような4枚のカードがあり、表にはアルファベットが、裏には数字が書かれている。今、「母音が書いてあるカードの裏には偶数が書かれていなければならない」という規則が成立していることを確かめるためには、どのカードの反対側の面を確かめなければならないだろうか?

+---+ +---+ +---+ +---+
| E | | K | | 4 | | 7 |
+---+ +---+ +---+ +---+

 問題4 この問題は100人のグループに対して出題されているとする。今、各人に、1以上100以下の好きな整数を1つ選んでもらい、全員の数値の平均値の2/3倍に最も近い数を選んだ人が勝者であるというゲームをする。あなたは勝つために、どの数を選ぶだろうか?

 問題5 あなたは1000円渡され、見知らぬ誰かと分けるようにと言われた。自分の分として全額手元に置いてもいいし、一部を自分で取り、残りを相手に渡してもよい。ただし相手には拒否権があり、相手がその額を受託したらあなたの提案どおりに分配されるが、相手がそれを拒否したら2人とも一銭ももらえないとする。あなたなら相手にいくら渡すと提案するだろうか?

簡単に思えるかもしれないが、実際に正解を聞いてみると、意外に思うものが多いのではないかと思う。少なくとも、私はかなり間違えた(なお、正解は後半に載せる)。

このように人間は確立や論理に関する問題を感覚で解くが、それが合理的な正解(つまり、本当の意味での正解)とは異なることが多い。

しかし、純粋な経済学の世界では、すべての人間は極めて合理的に行動することになっている。そのような純粋経済学に対して、感情に左右される人間の行動を基にして経済の事象を説明しょうというのが行動経済学だ。

行動経済学 経済は「感情」で動いている
友野 典男
4334033547

本書はその行動経済学を解説したものであるが、冒頭に紹介したような論理クイズやいろいろな実証実験の結果を交えることで、学究的な色彩を薄めたわかりやすいものとなっている。ヒューリスティックとバイアス、フレーミング効果などの人間の判断に影響を与えるものを知ることで、ユーザー分析をする際の注意点がわかるし、また意図的にある方向に議論を他者の意見を誘導したいときなどにどのようにすればよいかもわかる。なかなかの良書。若干、専門的すぎる章もあるが、読み通すのはさほど苦にならない。

では、冒頭の問題の正解と解説。フォントを背景色と同じにしているので、マウスで選択して、色を反転させて読んで欲しい。フォントを背景色と同じにしているが、マウスを上に載せると回答が表示される。

 問題1
 正解は、選択を変えれば当たる確立は2/3に上がり、したがって「選択を変える」のが正しい。
<中略>
 まずAが当たる確立は1/3、BまたはCが当たる確立は2/3である。そして、Cははずれであることがわかったのだから、Bが当たる確立が2/3になり、選択を変えた方がよい。

 問題2
 信頼性が99%の検査で陽性と判定されたら、たいていの人はこの感染症にかかってしまった確率が99%と考えるであろう。ほとんど絶望的である。しかしこの直感も間違いなのである。
 もともと、この感染症にかかる確率は1万分の1であるから、100万人当たり100人の感染者がいる。検査の信頼性が99%であるということは、100人の感染者のうち99人が要請と判定されるわけである。
また、100万人当たり999900人は感染していないが、この検査を受けるとこの中の1パーセント人は誤って陽性と判定される。つまり99900人の非感染者のうち9999人は誤って陽性となってしまう。
 すると、陽性と判定された人は99+9999=10098人いるが、この中で「感染していて陽性の人」は99人だから、
    (感染していて陽性の人/陽性と判定された人)=99/10098≒0.0098
 したがって、実際に感染している人の確立は、ほぼ1%しかないのである。

 問題3
正解は、Eと7である。
 これもわかりづらい問題の一つで、典型的な誤答は、Eのみ、またはEと4を選ぶものである。政界は、Eは当然であるが、もう一枚、7の裏面も確かめなければならない。もしそこにたとえばAと書いてあったら、ルールに反するからである。4の裏面はどんなアルファベットでもいいのである。

 問題4
この問題では全員がランダムに選んだときの平均値は50である。そこで、その2/3を考えると33となるが、皆がそう判断できるとすると、勝つためにはその2/3すなわち22がまず候補となるが、ここでも全員が同じ推論をすれば、さらにその2/3に最も近い整数つまり15でなければ勝てない。しかし全員が同じならそれでも勝てないから、その2/3である10なら勝てるであろうか。この思考プロセスを続けていくと、7、5、3と続き、最終的には1でなければ勝者にはなれないことがわかる。

 問題5
この問題には確たる正解はないが、あなたが経済人()であり、相手も経済人であると予想するならば、自分が999円得て、相手には1円だけ渡すのが正解となる。相手も経済人であるから、0円より1円でももらう方がいい。したがって、あなたからの提案が1円以上であれば拒否しないはずである。あなたは、そのことを正確に予測しているから、自分の取り分がなるべく多くなるように999円手元に置くことになる。相手の取り分は1円である。
ほかにも問題が紹介されている。次の問題も面白かったので、ここで紹介しよう。
 隣家に新しく一家が引っ越してきた。子供が2人いることがわかっているのだが、男の子なのか女の子なのかはわからない。
(1)隣家の奥さんに「女の子はいますか」と聞いたところ、答えは、「はい」であった。もう1人も女の子である確立はいくつか?
(2)隣家の奥さんに「上の子は女の子ですか」と聞いたところ、答えは「はい」であった。もう1人も女の子である確立はいくらですか?
(3)隣家の奥さんが女の子を1人つれて歩いているのを見た。もう1人の子供も女の子である確立はいくらか?

正解は以下の通り。
 
(1)世の中に男女は半々いるのだから、1/2と答えそうになるが、正解は1/3である。子供の組み合わせは、女女、女男、男男の4通りがあり、女の子が1人いることがわかっているので、男男はない。したがって、この一家の子供の組み合わせは、女女、女男、男女の3通りのうちのどれかであり、もう1人も女の子であるのはこのうちの1通りであって、その確立は1/3である。
 (2)正解は1/2である。上が女の子の場合の子供の組み合わせは、女女、女男しかない。下も女の子であるのは1通り、つまり確立は1/2である。
 (3)正解は1/2である。<中略> これも(2)と同様に、目撃した1人は女の子とわかっているので、残りの1人は、女の子か男の子のどちらか。つまり確立は1/2である。
このようなゲームの解説と実際にはどのように解釈されることが多いかを知るだけでも本書の価値はある。すぐに忘れそうだから、手元に置いておきたくなる一冊だ。