2010年10月5日火曜日

癌ノート~米長流 前立腺癌への最善手~

前立腺がんを告知されてからの経緯を日本将棋連盟会長である米長邦雄氏がまとめた1冊。すでにウェブ上にある「癌ノート」を元に専門医の補足説明がつけられている。



いわゆる闘病記というカテゴリに入れられるのかもしれないが、そのような深刻さはまったく感じさせない。もちろん、それは筆者が生還したという事実からの安心感から来るのかもしれないが、ほかにも前立腺がんが進行の遅いものであること、それに筆者自身の生来の陽気さにある。何度も出てくるが、闘病中であっても「笑い」を絶やさないようにしている筆者の姿勢がこの本を深刻さとは無縁なものとしている。

この本は純粋に読み物として面白い。軽いエッセイのようにも思える。これも筆者が書き慣れているからか。読み物として楽しめるが、中身は知っておいて損はない情報が詰まっている。

まず、ある程度の年齢が行ったら、PSA検査をしたほうが良い。筆者は60歳、いや50歳を超えたらと言っている。進行の遅い癌だから、自覚症状が出たときには手遅れ。PSA検査は血液検査だけで可能だ。

PSA検査の基礎 -前立腺がん早期発見のため-

あと、癌の可能性があるとわかってからも、検査まで、さらにその結果が出るまでに日数がかかることは知っておいたほうが良い。筆者の場合も、PSA検査で値が上昇してからも、しばらくは経過観察で、癌の疑いが強くなっても、生検を行うまでに3週間以上かかっている。また、骨への転移を検査するための骨シンチグラフィまでにさらに3週間。この間を不安に過ごすことになる。

良く著名人であったりすると特別に早く診察や検査をしてもらえるとう話を聞く。おそらく嘘ではないと思うが、少なくとも筆者ほどの著名人であってもそのようなことはなかったようなので、生半可な有名具合じゃダメなんだろう。一般人である我々は検査には途方も無い時間がかかること、たとえ癌の検査であっても、特別視されない可能性があることは理解しておいたほうが良い(* 進行の遅い前立腺がんだったからという可能性はあると思う)。

セカンドオピニオンの重要性や医者を知人に持つことの安心感なども筆者の実体験を読むとよく分かる。

本書、というよりも筆者の体験で参考になるもう1つの重要なポイントは、気になることはしっかりと調べ、しっかりと聞くということだ。これは前回レビューを書いた「余命半年 満ち足りた人生の終わり方」の中でも言われているのだが、医者を尊重しつつ、でもバランス良く疑い、そして自分で調べ、結論を出すということだ。

前立腺というのはご存知のとおり、性機能を司るものだ。そのため筆者にとって優先度が高かったのが、性機能が失われないか。普通、生死に関わる問題であった場合、そちらを優先させてしまい、生きながらえたあとの自分の命の質、すまりQoL (Quality of Life) まで考えが回らないということもあるだろう。特に、ある年齢まで達している場合、もういい加減そんなのは卒業してと周りにたしなめられないとも限らない。だが、自分にとって優先度が高いものは高い、簡単には諦めたくない、というものはとことん拘るべきだ。筆者のあくなき可能性の追求は見習うべきものだろう。筆者は結果、全摘出を勧められていたにも関わらず、高線量組織内照射(HDR)という放射線治療を選択することになる。

本書では告知から検査、そして治療までを解説し、終了しているが、ウェブの「癌ノート」はまだ更新が続けられている。このブログを書くために、最近の様子を読んでみたが、PSA値が若干あがっているようで、「私もいずれは再発すると思っています」と書いている。ただ、「しかしそれは90才を越えた頃でしょう。ですから私は97才以降の自分がとても心配なのです」とも。相変わらず、どこまでが本気でどこまでが冗談かがわからない。
私は性とは体力ではなく、年令でもなく、氣力でもなく、欲望でもないと思うとります。それはなんなんでしょう。この世を去るまでモテる法。これについて語り合う会を立ち上げたい。あっちもこっちも立ち上げたい。人生は楽しいです。
 燃える生命、これが最後かもと思う心を何かが突き動かしてくれるような氣がします。

癌ノート」 その44(2010年5月9日記)勇氣を から

これは本心だろう。素敵な生き方だ。見習いたい。

蛇足: Twitterもやっているようだ。これまた素敵。http://twitter.com/yonenagakunio