2008年10月21日火曜日

オンリーワンは創意である

オンリーワンは創意である (文春新書 653)

シャープ会長の町田氏の著作。

いわゆる「選択と集中」によって液晶事業を経営の柱としたシャープであるが、その話をはじめとして、日本の厳しい製造業の競争を生き残ってきたシャープの経営の秘訣が書かれている。

コスト競争に勝ち抜くために海外に生産拠点を移したり、そもそもファブレス化するような企業の多い中、シャープは生産技術こそ自社の生き残る道として、亀山工場を作る。「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本」で書かれている「国家が豊かさを追求するための方法の1つ」である「日本型の果てしなき生産性向上」を追求したものだろう。

町田氏は次のように言う。
「生産技術は現場で長年培った経験やコツ、ノウハウがものをいう世界」。生産技術はいわば「老舗のうなぎ屋の秘伝のたれ」みたいなものだ。自前でこつこつ積み上げていくものである。しかし、モノをつくらなければ生産技術は進化しない。

「秘伝のたれ」とは、具体的には製品を生産するための“レシピ”のことである。製品は、向上にある製造装置によって生産される。工場はアイデアの塊といってよく、製造装置の動かし方や道具の使い方、材料の扱い方など、生産現場独自のノウハウをもっている。それらすべてが調和してはじめて、生産効率と品質がうまくバランスし、歩留まりの良い製造が可能になってくる。

<中略>

せっかくつくりあげた「秘伝のたれ」は本来、「門外不出」だからこそ商売になるはずだ。安易な海外移転は、「秘伝のたれ」をやすやすと分け与えているようなものである。

亀山工場では、生産技術のブラックボックス化をおこなった。かねてより生産技術が海外流出していることに懸念を抱いていた私は、亀山工場を建設するにあたり、生産技術の「要」となる部分を、外からでは見えないようにした。
亀山工場のブラックボックス化は有名だろう。私もテレビの特集か何かで見たことがあるが、外部からは中の様子がまったくわからないように建設された工場だったように記憶している。

上でも触れたが、この本は「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本」とともに読むと良いかもしれない。日本企業の勝利の法則である、「公式1)数の多いほうが勝ち-すなわちシェアを抑えたものが有利」と「公式2)グローバルブランドの確立と維持-一度ブランディングに成功し、それを維持し続けられれば、価格競争に陥らずに済む」をいかに日本を代表するシャープが実現していたかが良くわかる。家電の中でのテレビの持つブランド力に目をつけ、いかにテレビ市場の中でシャープのシェアをあげたか、さらには液晶のブランドとして「AQUOS」のブランド力を高め、それをさらにほか商品に展開していく様子。まさに、従来の日本企業の勝利の法則の模範のような企業だ。

その「AQUOS」の名前を冠した携帯電話は日本最初のカラー液晶を搭載し、さらには同じくデジカメ搭載した日本発の携帯電話は「写メール」という言葉が携帯電話に付属のデジカメで撮影した写真を添付したメールの代名詞になるほどヒットした。

ただ、グローバル展開という意味では、シャープも他社同様、ここ数年は必ずしも成功していない。町田氏は、中国でAQUOSブランドが強いことや3G携帯が普及していくことを理由に、中国での事業展開に自信を見せているが、どうだろう。

垂直統合(「他社にはないオンリーワンのキーデバイスを開発し、それを自社の商品に組み込むことで、他社にないオンリーワンの商品をつくるやり方」)と技術の融合(「異分野で開発された技術をひとつに融合させ、新たな付加価値を創出するやり方」)の2つがうまく噛み合うことでオンリーワンの商品はうまれると町田氏は説く。海部氏が言う共同体の同意が得られない分野ではイノベーションがおきない日本の課題まで、この2つが噛み合うことで解決できるようだと、シャープの、または日本の製造業も明るいだろう。

ところで、4章で町田氏が社員に「I型人間」より「T型人間」になれと説いている話が書かれている。これは私が以前部下や若い人に話していたのと同じだ。
私は社員に向かっていつも、「多能工になれ」と言っている。そして、「I型人間でなく、T型人間になれ」と説いている。

自分の得意分野や、興味のあることだけを追求するのが「I型人間」だ。Iの文字がまっすぐ一本伸びているように。そうではなく、Tの文字が横に広がっているように、専門分野を極めるのはもちろんだが、それに加えて、幅広い知識やスキルが身についた「T型人間」になれということだ。
Tの縦棒を深く、そして太く出来た上で、さらに横棒も広く、そして太く出来たら、人間として怖いものはないだろう。まぁ、それが出来ないから、みんな苦労しているわけだが (^^;;;;

日本の勝ちパターンとそれを踏まえての将来戦略を知るにはうってつけの本。薄くてすぐ読めるのでお勧めだ。「すぐ読み終わっちゃった」と言って、本書を私にくれたA社のAさん、どうもありがとう。

オンリーワンは創意である (文春新書 653)
町田 勝彦

4166606530

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