2009年3月28日土曜日

センセイの鞄

川上弘美氏の作品を読んだことがなかった。この作品も谷崎潤一郎賞をとったということも知ってはいたが、手に取ることはなかった。これもまた、ブックオフ100円シリーズの1冊。ブックオフ、ありがとう。

ストーリーはすでに知られているように、30代後半の女性とその高校時代の教師の高齢の男性の恋愛。行きつけの飲み屋で、ふとしたことから飲み仲間になり、徐々になくてはならない存在になる。センセイの気持ちがはっきりしないまま二人の関係は続く。読者からしてみたら、このぎこちない感じが感情移入できる理由だろうか。恋愛小説の典型的な手法かもしれない。もっとも、私は男性で、主人公である女性のツキコさんに感情移入するというのは、良く考えるとおかしい。この本は男性にも良く売れたらしいので、感情移入した私が例外ではないのだろう。年の離れた女性との慕われる男性というシチュエーションに感情移入した、もしくは夢を感じたのだろう。

センセイの鞄 (文春文庫)
センセイの鞄 (文春文庫)

感情移入したと言ったものの、正直言うと、あんまりにものろのろした展開に若干しびれを切らしたのも事実だ。ただ、このじれったくなるような進行も、著者の文体の持つ不思議なトーンによりやや心地良くなった。スローライフにはあう小説かもしれない。

ツキコさんもセンセイも、生い立ちや考えなどを深く掘り下げられていない。ストーリーの展開にあわせて、センセイの亡くなった奥さんの話やツキコさんの過去の恋愛経験が説明されるもののそれだけだ。人物像をはっきりと読者に提示することをしないという情報の欠落が、この小説の独特のもやっとした不思議な色彩を作り上げているように感じる。

女流作家は好きなので、読んでみたかった作家ではあるけど、この作品は私の趣味とはちょっと違ったかな。