仕事柄、P2Pソフトウェアは前から興味を持って調べている。Windows自身に実装されているP2Pのインフラ技術(残念ながら、マイクロソフト純粋のツール/アプリケーション以外はあんまり使われていないのだが)を担当していた関係で、P2Pの基本技術はわかる。Winnyは自分でも動作させて、どうやったらWinnyによるウィルス感染被害にあわないで済むかを調べたこともある(私の持つもう1つのブログへの投稿「Winnyは使わないほうが良い。だけど、どうしても使いたいのなら…」を参照のこと)。
今では、以前ほどの興味は無いのだが、それでもたまにP2P関連のニュースを読むと、現状の確認をしてみたりはする。
そんな中でどうしてもわからなかったのが、P2P-この場合はファイル共有により違法に著作権のあるコンテンツを流通させるP2Pファイル共有を指す―に異常なまでにのめりこんでしまう動機だった。最近でも、SHAREを利用したことで個人情報などを流通させてしまったIPA職員がいたが、単に安上がりにコンテンツを取得したいだけならば、DVDやCDをレンタルで借りて、それをリッピングしたほうが安全だ。何故、法を犯してまで、人々はそんなにP2Pファイル共有にのめりこむのか。レアなコンテンツ好きな人間がそんなに多いのだろうか。
人によって違うだろうが、この本を読んで、1つの答えを得た気がする。ここで描かれているのは、P2Pファイル共有を通じたコミュニティの醸成だ。この体験記に出てくる主人公は必ずしも自分の趣味に合致するコンテンツを集めるのではなく、コンテンツを集めること自身が動機となっており、またそれを通じて同じような仲間と繋ぎ合えるのが魅力となっているのだ。これはWinMXというWinny登場前のP2Pファイル共有ソフトだったからこそかもしれない。WinMXはファイルをピアから取得する際に、IMなどで打診することが礼儀となっていたようだ。だからこそ、単にソフトウェア上で欲しいファイルを選択し、ダウンロードを指示するだけのWinnyとは違い、ソフトウェアを介してのバーチャルな空間での人と人との繋がりが出来ていたのだろう。
この特殊なバーチャル空間でのコミュニティにおいて、人からのレスペクトを得て、それを維持することが彼の動機だったようだ。彼は実際、WinMXを通じて、人にコンテンツを提供するために、自分でリッピングをして、動画をエンコーディングしている。動画エンコーディングのスキルを身につけるために、WinMXの知り合いの中で詳しい人にIMごしに教えを請うまでしている。その動画自身は彼自身の興味の対象ではない。ネットの向こうにいるWinMXコミュニティメンバーのために彼はエンコーディングをする。
Winnyにおいては、このような人間関係というのはもはや一部なのかもしれない。だが、匿名性におけるネット上のコミュニティは、一部メディアが報道するような殺伐としたものではなく、リアル世界におけるペルソナとは別のペルソナを持った、つまりリアルの自分とは別の人間として振る舞える世界の上での、もっと血の通ったもののようだ。これはWinMXが下火になった今のネットの上でも同じだろう。
ブックオフで100円で買った本だったが、知らなかった世界を覗くことができた。
だからWinMXはやめられない | |
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