2009年1月31日土曜日

考えるウォークマン

昨年、「ポケットに名言を」の書評で三田誠広氏の「考えるウォークマン」が好きだったことを書いた。
三田誠広氏は芥川賞を取った「僕って何」も好きで、その後に書かれた「赤ん坊の生まれない日」もむさぼるように読んだ。題名も忘れてしまったが、氏が浪人時代休学していた時期に書いた作品もどこからか出されていて、それも友人と回し読んだ。今は著作権保護期間の延長を唱えていてネット住民からは目の仇にされている同氏であるが、当時の学生運動の余韻の残る時代の中で、ひときわ輝いていたように思う。「考えるウォークマン」はちょっと毛色の変わった作品で、中に確かコンピュータアルゴリズムを思わせるゲーム理論の話が出てきたように記憶している。これが私がコンピュータに興味を持つきっかけの1つになった。確か、これを読んだのはすでに大学に入ったころだったと思う。ちなみに、この「考えるウォークマン」だが、中古でもかなりの高値がついている。千歳烏山の女子寮の喫茶店に入り浸っていた私がこの本をあげたRさんは今どうしているんだろうか。
この千歳烏山の女子寮の喫茶店というのは、「マリイ(漢字だったように思う)の家」という喫茶店だった。系属校からの推薦でストレートに大学に入学した私だったが、何故か友人には二浪で入学した連中が多く、彼らと一緒に常に行動していた。ちょっと大人びた彼らのうちの1人がこの喫茶店でアルバイトを始めるようになると、いつの間にか、ここがたまり場に。女子寮の喫茶店ということもあって寮に住む女子大生の客が多かった。沖縄から上京し、都内の女子大に通っていたRさん(下の名前)がぽつんと1人でいたのはある日の午後。私もたぶん、つまらない授業を抜けだし、話し相手を探しに店に来ていたのだろう。何を話したのかは、まったく覚えていないのだが、何故か、読み終わったばかりの「考えるウォークマン」を貸した。

その後、1年後に亡くなることになったのだが、父が闘病生活に入り、私も卒業論文で忙しくなり、この店にも通わなくなってしまった。Rさんとはその後会っていない。そんなこともあって、この本のことは内容とともに、Rさんのことを思い出す。

昨年、この本を好きだったことを書いたとき、友人の横山さんが、この本をまだ持っていることを知った。Amazonでこの本を見てみるとわかるが、古本としてしか流通しておらず、結構な高値になっている(それでも、今は6千円くらい。確か、昨年は3万を超えていた)。なので、横山さんが貸してくれると言ってくれたときは、すぐに飛びついた。



読みなおしてみたところ、当時の記憶がまざまざと蘇ってきた。少し大人ぶった成人直前の私。ビートルズと数学者と哲学者の言葉がカクテルとなったようなこの小説にノックアウトされた。本書のあとがきには次のように記されている。「この作品はふつうの小説ではない」、「この作品は考えながら読んでほしい」。



一回読んだだけではわからないところもあった。意味がわからないのではなく、何を訴えたいのか、何を読み取るべきなのか。文字通り、考えるウォークマンのように歩きながらも考えた当時の自分。今回読みなおしてみても、やっぱり考える部分は同じ。人によって解釈は異なるだろう。それがこの話の良いところ。

前回のブログでも書いたのだが、今回改めて読んでみて、この本が私をコンピュータの道に進ませる1つのきっかけになっていたことを思い出した。この本が無かったら、今の私は無かったかもしれない。改めて三田誠広氏に感謝したい。

ところで、本の中で紹介される、あるプログラムコンテスト。是非、皆さんも考えてみて欲しい。
  • ゲームは「チョキ」のないジャンケン。「グー」と「パー」しか出せない
  • 「パー」を出して勝てば5点
  • 「グー」で負ければ0点
  • 「グー」同士なら3点
  • 「パー」同士なら1点
  • このジャンケンを200回やって1ゲーム
  • 1ゲームでの当面の対戦相手との勝ち負けは関係なく、ポイントだけを記録し、参加者全員と総当たりのリーグ戦をやり、トータルポイントの多いものが優勝
さて、どのようなアルゴリズムなら勝てるだろうか。

ちなみに、あとがきによると、これはダグラスホフスタッターの「メタマジック・ゲーム―科学と芸術のジグソーパズル」からヒントを得たものらしい。