2012年12月5日水曜日

寺島実郎氏の原子力政策提言

寺島実郎という人がいる。テレビのコメンテーターなどでも有名なので、名前だけではピンと来なくても顔を見るとわかるだろう。肩書きは一般財団法人日本総合研究所理事長で三井物産戦略研究所会長、そして多摩大学学長。そして、原子力維持・推進派としても有名だ。

時代との対話 寺島実郎対談集


寺島氏はさまざまな場で原子力政策についての提言を行なっているのだが、10/3に行われた第3期寺島文庫リレー塾2012の講演内容が「ON THE WAY JOURNAL WEEKEND寺島実郎の世界」で聞くことができたので、要旨を書き起こしてみた。

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米国では、スリーマイル島事故以来、33年間認可してこなかった原発の新設を、2月10日にジョージアで2基、3月30日にサウスカロライナで2基、今年になって認めた(34年ぶり)。

また、世界の原子力産業を見ると、2006年にウェスティングハウスを東芝が買収し、2007年に日立とGEががジョイントベンチャーを設立し、(2008年には)三菱重工が仏アレバとジョイントベンチャーを設立したことからもわかるように、中核主体は日本産業となっている。世界の格納容器の8割も日本製鋼所室蘭製作所で作られている。実際に、現在ウェスティングハウスが中国で4基の原子炉の建設にあたっているし、台湾の7号機はGEが下請けだが、実態は日立が動いている。

つまり、日本の置かれている状況は、日米原子力共同体という構造の中で考えなければいけない。脱原発は米国との利害調整抜きでは進められない。

日本を取り囲むアジアの状況を見ても、中国が2030年までに80基8000万KW、韓国も38基、台湾であっても湾12基の原発が稼働することになり、合計100基以上の原発が日本を取り囲むことになる。いずれかで事故でも起きれば日本にも影響がある。このような中、貢献しようにも発言しようにも、原子力の技術基盤を持っていないと、一切の存在感を失うことを覚悟しなければいけない。

原発を停止した影響を示す例として、LNGの輸入額がある。LNGの輸入がトータル7兆円になるが、そのうち3兆円が原発を止めているために代替分で増やした分になる。食材や食品などのありとあらゆる食料品目の輸入額が6兆円なので、それを上回る額がLNGに費やされたことになる。

さらには、シェールガスの発掘により、米国は2030年代にはエネルギーの自給自足が可能になるといわれており、エネルギーの地政学がここに来て大きく変わりつつある。

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寺島氏の話はこのあと、領土問題などにも展開するのであるが、原子力政策について言及した部分の要旨は以上のようになる。

先に述べたように、寺島氏は原発維持・推進派で代表的な人物なので、このような発言は驚くようなものではない。ただ、原発に賛成するにしても、反対するにしても、寺島氏が突きつける問題は考えるには値すると思う。

不勉強ながら、事実関係を把握していなかったので、いくつかネット上で検索してみた。

まず、米国の原発の新設について。

「福島の教訓」に学ぶ原発、天然ガス利用促す声も 米国(CNN.co.jp)

おそらく、これがもっとも新しい記事だと思う。
米国は今年に入り、ボーグル原発の2基を含め、13基の原子炉新設を承認した。米国で原子炉の新設が承認されたのは、スリーマイル島の原発事故が起きる前年の78年以来。建設は1990年以来となる。
いくつかの新設について、電力会社が米原子力規制委員会(NRC)が認可申請の撤回を行ったという記事(米電力大手、原発新設計画を撤回 ガス価格下落で 日本経済新聞)もあったのだが、それは一部の個別案件のことだった模様だ。

さらに、次のような記述があるが、
原子炉の安全対策以前に、天然ガスというもっと安価なエネルギー源があるのに、なぜ原子炉を新設するのかという疑問もある。 
これはシェールガスのことを指しているのだろう。

また、中国の原発の新設計画については、「中国 原発大国への道」に記されているらしい。

韓国の原発計画については、比較的最新の記事として次のものを見つけた。

「韓国、原発の割合高めるしかない」=IEA (中央日報)
国際エネルギー機関(IEA)は23日に公開したエネルギー政策に関する報告書で、「エネルギー需要と保有資源不足を踏まえれば、韓国が原子力発電所の割合を高めるのは必然的な政策」と指摘した。
一方、次の記述も。
IEAは韓国で使用済み核燃料を処理する敷地を探すのが難しいことを認めた。ただ、「原子力と原発新設は多くの国民の理解を得ている」と述べ、脱原発の声が高まる韓国社会の雰囲気とは全く異なる評価をした。 
寺島氏の発言とは別に、卒原発であっても、脱原発であっても、実際の廃炉までにはかなりの期間が必要となり、それを支える優秀な技術者が多く必要であることを考えると、原子力工学を目指す若者が減少することが懸念される。

今年の4月のデータであるが、すでに入学者が16%減少していたらしい。来春はどうなるのであろう。
原子力を研究する大学の学科や大学院の専攻に今春入学した人は、東京大など7大学の合計で昨年より16%減少、最大71%減った大学もあった

【「原子力」入学者16%減】今春、原発事故が影響/「原子力ルネサンス」一変 (47News)

衆院選が告示されたこともあり、また実際に考えるべきことが多くあって私もまだ理解できていないので、ここでは寺島氏の発言の要旨と、そのほか関係するデータを記すに留めておく。誤解されることは無いと思うが、このブログポストは寺島氏の考えに賛同を示すものではない。