成功者の絶対法則 セレンディピティ
成功者の絶対法則というタイトルから安易なマネー術かと思ってしまうかもしれないが、本書は人間が働き、そして生きていくために必要な「偶然」を呼び込むためのヒントを紹介するものだ。
私は恥ずかしながら本書を読むまで知らなかったが、「セレンディピティ」という言葉がある。これは「偶然をとらえて幸運に変える力」のことだ。こう書いても、なにやら怪しい自己啓発セミナーなどを想像してしまうかもしれないが、そうではない。たとえば、ノーベル化学賞の田中耕一氏の研究が失敗による産物であったことは有名だろう。このように失敗という偶然から幸運の種を見つけ出し、成功に結びつけることをセレンディピティと呼ぶ。
3Mのポストイットも有名な例だ。失敗して、通常では商品化できない弱い接着剤を開発してしまった一人の開発者とその使い道を考え付いたもう一人の社員。その二人の組み合わせで生み出されたのがポストイットだ。
これらの例は「偶然」なのであるが、この偶然は日ごろの努力により呼び寄せることが可能だという。正確に言うならば、偶然を見逃さずに、成功に結びつけることができるようにするのは技術だ。
本書ではいくつものセレンディピティの例と、そのための発想法や組織論が解説されている。
いくつ本書より学んだポイントを挙げよう。
- 成功は「素人発想」+「玄人実行」
- 「考えてもいなかった市場で、考えてもいなかった客が、考えてもいなかった製品やサービスを、考えてもいなかった目的のために買ってくれること」がベンチャービジネスが成功する要因の一つ(P.F. ドラッガー)→ つまり、「想定外の所で起こりつつある機会」に敏感になることが重要
- 「見えざる顧客」をいち早く獲得する
- ステップ1: 情報の収集
- ステップ2: 集めた情報を頭の中で租借する
- ステップ3: 問題を放棄する
- ステップ4: (セレンディピティによる)偶然の発見
- ステップ5: 論理的な思考を駆使して、アイデアを強化
最後に、社会人として基礎教養となっているロジカルシンキングについてもヒントを披露してくれている。MECE、すなわち漏れなくダブり無くというのがロジカルシンキングの基本であるが、ロジカル構造はピラミッド構造で考え、その上下の関係は「なぜならば」(上から下に下りる場合)と「だから」(下から上に上る場合)のいずれかで結び付けられる。また、MECEにしろその範囲を的確に抑えておかないと、漏れが出てきてしかねない。
このように、「セレンディピティ」という偶然のひらめきをつかむためのヒントが多く書かれているが、それ以外にも働き方や考え方の基本となる情報がわかりやすく解説されている。いろいろな例が示されているのも良い。多くの人に推薦したい一冊だ。