この記事にもあるように、TOEICは世界ではほとんど認知されていない。日本と韓国が受験生の大半であることも知られている。米国の大学や大学院に行くにはTOEFLとGMATが必須だし、海外企業に就職するに際しても、TOEICのスコアを出しても理解されないことも多い。
だが、それでも私はTOEICを評価する。以下がその理由だ。
- 日韓に特化している。
つまり、裏返せば、日本人と韓国人が間違えやすいところを重点的に突くようなテストになっている。したがって、TOEIC対策をすることによって、自然とそのような日本人が間違えやすい発音や文法などを正しく覚えることができる。 - 英語処理能力を高めることができる。
TOEICを受験したことのある人は知っていると思うが、短時間で大量の問題をさばかなければいけない。リスニングで45分で100問、リーディングで75分で100問だ。リスニングは待ってくれないし、リーディングはじっくり考えている時間がない。そのため、TOEICでスコアを獲得するためのテクニックが存在する。それは、あらかじめ設問を読んでおくことであったり、選択肢問題では明らかに関係ない選択肢をすぐに候補から除外することなどである。実は、これは実務で必要とされる英語力と近い。たとえば、日常のメールのほとんどを英語でやりとりするようになったとする。あなたが大量のメールを日々交換しているとすると、その1通1通を丁寧に、時として辞書を引きながら、上から下までじっくりと読む時間はない。即座にスキャンし、そのメールの重要性を判断し、読むべきところはしっかりと、それ以外は飛ばしながら読むことをしなければいけない。TOEIC対策を通じての英語情報処理能力の向上はこのような実務において極めて有用だ。 - ベンチマークとして使える。
TOEICで高スコアを取ったからと言って、英語力があるとは限らないが、(実践的な)ある程度の英語力を知ることができるのは事実だ。英語をあまり勉強してこなかった人にとっては、動機づけとしては極めて有効であり、また実際に勉強の成果を測るテストとしては意味がある。手軽に定期的に受験できることも大きい。また、その良し悪しはともかくとして、日本に定着しているため、日本において自分のTOEICスコアを把握していることは意味がある。
英語に限らず、非母国語(非母語)学習における動機づけは学習を継続するためにも重要である。TOEICのようなベンチマークとなる試験の存在だけが動機のすべてではないが、重要な役割を占めるのも事実である。非母語を学習するための動機づけには、統合的動機づけと道具的動機づけに分類される(詳しくは「外国語学習の科学」を参照)。
統合的動機づけとは、その言語を通じて、それを母語とする外国の文化を学びたいとか、それを母語とする人たちと交流を図りたいといった動機づけである。
一方、道具的動機づけとは、その言語力を高めることによって、希望する学校や企業への入学や就職が可能になるとか、資格手当が得られたり、昇進に有利になるなどの経済的な利益が期待できる場合などである。
いずれにしろ、動機がないと、学習は継続しない。TOEICを学ぼうとする人にとって、後者の道具的動機付けとの関連が強くなると思われるが、学習者にとって、それは決して悪いことではない。
TOFEFLのスコアやほかの手段で自分の英語力を示せる人はそうすれば良いし、英語学習における動機づけとして、TOEICが必要のない人は、TOEICに頼らなくても良いだろう。だが、日本において、これだけ認知が高く、試験としてはそんなには悪くない試験があるのだから、それを利用しない手はないと思う。「ガラパゴス、でもやっぱりTOEIC - Togetter」にも書かれているように、ぐだぐだ言っている前に、ガラパゴスと言われようがなんと言われようが、TOEICで高スコアを出して、それから批判すれば良いだろう。試験として、リスニングとリーディングのみで、アウトプットが足りないという指摘はそのとおりだが、それはほかで補完すれば良い。これについては別途日を改めて考えを述べてみたい。
TOEIC対策としては、まず試験形式を把握し、問題の傾向を知るためにも、公式本にあたるのが良いと思う。
TOEICテスト新公式問題集〈Vol.4〉
どのレベルの人であっても出される問題と形式は一緒だ。初めての人であっても、何度か受験している人であっても、本番に近いものに触れておくのは大事だ。
ほかに参考になった書籍などを下にあげておく。
新TOEICテスト 直前の技術—スコアが上がりやすい順に学ぶ
著者の1人のロバート・ヒルキさんの教え方が実に分かりやすい。かなり昔に、アルクでのセミナーが公開されていたことがあったように記憶するが、それも大変わかり易かった。いわゆるTOEICのスコア向上テクニックを解説している本ではあるが、上で述べたように、多くのそれは英語情報処理能力の向上にも役立つものなので、無駄ではない。「11日間即効プログラム」と言うだけのことはある。
TOEIC Test 「正解」が見える【増補改訂第2版】
韓国でカリスマ講師と言われているらしい著者の、こちらもいわゆる対策本。私は改訂前のしか読んでいないのだが、大変参考になった。時間配分なども指示されていて、それを頭に入れておけば、本番で時間に追われてパニックになることはない。
TOEIC TEST文法完全攻略―必須単語も同時に身につく (アスカカルチャー)
1998年の発売と古いが、文法についてはこの書籍だけで私は勉強した。今回、このブログを書くにあたって、改訂版が出ていないか探してみたのだが、出ていない模様。おそらく、今でも通用するロングセラーなのだろう。
新TOEIC(R)テスト900点 新TOEFL(R)テスト100点への王道
杉村太郎さんというと、私と同世代の人はサラリーマンでありながら芸能活動をするユニット「シャインズ」として記憶に残っているかもしれない。私はこの本の改定前の旧版を読んだのだが、そこでシャインズ後の彼を知った。今回、改めて、このブログを書くにあたって調べてみたら、なんと昨年がんで亡くなっていた。お会いしたことはないが、強烈な個性の持ち主だったように見受けられ、英語学習や留学支援においても実績をあげていただけに残念だ。ご冥福をお祈りしたい。
さて、本書はそこで述べられている具体的なテクニックもさることながら、非科学的ではないかと思われる精神論的なものまで含めて、動機づけや動機を維持するためにも、大変参考になる。Amazonのカスタマーレビューでは評価が低いが、その理由は改訂版と旧版に違いがほとんど見られないことによる不満によるものだ。読み物としても面白いので、もしどれか1冊と言われたら、この本を最初の1冊としてお勧めする。
英単語関係の書籍が無いのだが、あまり単語だけの学習は行わなかった。いや、書籍も何冊か買ったのだが、どれもそんなに大差なく、効果があったかどうかは不明だ。所持していた電子辞書にTOEIC頻出英単語が載っていたので、通勤時などにそれをたまにやるくらいだったかと思う。
以上、TOEICをなぜ勧めるかの理由と参考図書の紹介だ。
そう書いているお前の英語力はどうなんだと聞かれると恥ずかしいのだが、冒頭に書いたように、外資系に勤めていながら恥ずかしいくらいの英語力しかない。外資系3社にいてクビにならない程度の英語力は持っているが、ぺらぺらには程遠い。日々努力。TOEICスコアはAスコアレベルというものは一応達成している。そろそろもう一度受験してみようかと思っている。次は満点を狙いたい(まず無理そうだけど)。
あ、そうだ。満点を狙いたいって言ったら、アルクに勤務している友人がこれを勧めてくれた。まだ買ってもいないけど orz
新TOEICテストBEYOND990超上級問題+プロの極意