朽ちていった命―被曝治療83日間の記録を読んだ。
1999年に起きた東海村での臨界事故犠牲者の被曝治療を記録したものだ。NHKスペシャル取材班によるもの。
【ショートクリップ】NHKスペシャル 被曝治療83日間の記録
致死量を優に超える大量の放射線を浴びると人はどうなるのか。人間の設計図とも呼ばれる染色体が破壊されたことによる人体への影響というものが被害者である大内さんの治療記録から読み取れる。
前例の無い症例に立ち向かう状況下では教科書はおろか先生も頼る人もいない。治癒の見込みの無い患者に対してどう向きあえば良いのか。
余命半年 満ち足りた人生の終わり方でも書いたこととも通じるが、治癒の見込みが無い場合、患者は、家族は、医療従事者はどのように判断すれば良いのか。これは現代の医療全体に突き付けられた課題である。
被曝治療の場合において、特にこの東海村での事例においては、少しでも長く人間としての時間を持てるようにするにはどうすれば良いか。それを探るためにも、完全治癒が難しかったとしても治療を続けざるを得なかったのであろうことが伺える。前例が無いが故に、効果的な治療をぎりぎりまで探る。
多くの人が一生のうちに一度はかかるようになり、また命を落とす人の原因ともなっている癌の場合は、決して社会的なコンセンサスが確立し、患者への適切なアドバイスなどが用意されているというわけではないものの、数多くの事例を元に、治療を続けるべきかどうかの判断はしやすいであろう。前例が無い世界においてはその見極めが難しい。
それでも医師たちは治療が長引き、現状を維持することしか出来なくなった時点で繰り返し逡巡する。その時点での現状というのがもはや患者に苦痛しか与えず、人間としての尊厳さえも危うい状況であった。
簡単に答えを出すのは難しい。
一方、この東海村の事故を教訓にして活かすだけであっても、正しい放射線に対しての危機意識を持つことが出来ただろう。広島、長崎での被曝を経験し、さらにはこの東海村の事故を経験したにも関わらず日本はそれを正しく学習してこなかった。今度こそ、後世に、そして世界に学びを伝えることが必要だ。