僕が学生だった20数年前、夜も11時を過ぎると寝る時間だった。もちろん、高校生ぐらいから友人宅に泊まっては深夜を過ぎても話していたり、街を出歩いていたりしたが、それは寝静まった時間に例外的な行動をとることに対する憧れであって、実際、静まり返った街は人が休息をとるためのものだった。
いつからだろう、夜が夜でなくなったのは。
千葉都民と呼ばれる都市でも80年代後半ごろには夜の10時くらいまで開いている書店が出始めた。コンビニだって24時間営業するのがやっと一般的になり始めたころだったので、小さいとはいえ雑誌だけではなく文庫や新書まで買える書店が10時まで開いているというのがうれしくて会社から帰って車で良く行ったものだった。当時から活字中毒だった。だが、わくわくしていたのは夜に本が買えるということではない。むしろこんな夜に書店で立ち読みをしているという「非日常」を味わえるのがうれしかった。
「非日常」が「日常」になるのはそのすぐ後のことだった。
かつて「クロスオーバー11」という番組があった。夜11時から12時までの1時間NHK FMで放送されていた番組だ。NHK FMは12時で放送を終了していたので、まさにその日を締めくくる番組だった。
78年からスタートしたこの番組、僕はおそらくスタート当初から聴いている。10時から放送されていたサウンドストリートからずっとNHK FMにラジオをあわせたままで。
この番組のオープニングは、当時流行し始めていたフュージョン調のサウンドに素敵なナレーションがかぶる。
街も深い眠りに入り、フュージョンはクロスオーバー音楽とも呼ばれていた。ハーモニクスでメロディアスに音を奏でるベースとこのナレーションで、本当に夜の足音が聞こえてくるようだった。
今日もまた 一日が終わろうとしています。
昼の明かりも闇に消え、
夜の息遣いだけが聞こえてくるようです。
それぞれの想いを乗せて過ぎていくこのひととき。
今日一日のエピローグ、クロスオーバー11
2011年の今、夜は夜でなくなった。コンビニや深夜営業の各種店舗。便利さに慣れてしまってもう離れられないし、それが悪いとは言わない。でも、時に思い出す。夜が夜だったときのことを。
「もうすぐ、時計の針は12時を回ろうとしている。今日と明日が出会う時」だ。もう寝よう。