2009年12月7日月曜日

THIS IS IT

10月末から2週間限定公開だったのが、要望が多かったということで2週間延期。そこで完全終了したと思っていたので、行けなかった人は一生後悔すれば良いとか思って、勝者の笑みを浮かべていたのだけれど、数日前のニュースでは、再度公開が決まったとか。行けなかった人、良かったねと思いつつ、こういうのはマーケティング手法としてどうなんだろう。担当者を小一時間こめかみにゲンコをぐりぐりさせながら説教したい気分にならないこともなくもない(どっちや!

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僕の年齢だと、マイケルジャクソンはちょうどリアルタイムに経験した世代になるだろう。高校の頃にスリラーやビートイットがヒットしていた。最初にビートイットを聴いたのは、通学時に友人が聴いていたウォークマンを横取りして聴かせてもらったときなのだが、ヴァンヘイレンみたいなギターみたいだねとか言っていたら、本当にヴァンヘイレンだったので驚いた。

でも、天邪鬼だったせいか、一般大衆にうけるようになったミュージシャンを軽蔑するのがステータスのように感じていたからか分からないが、その後は積極的に聴くことはなかった。ヒット曲は嫌でも耳に入るから、ほとんど知っているが、CDも買ったこともなければ、何度かの来日の際にライブに行くことも無かった。僕はロックで、彼はポップだった。

この映画のことを聞いたときも正直特に行く気は無かった。気が変わったのは、Twitterのフォローしている人たちがべた褒めしていたからだ。

結論から言う。確かに、度重なる延長の仕方やDVD/Blu-rayを売らんかなとするような手法などは、商業主義がかなり見えるかもしれない。だが、マイケルジャクソンのクリエイターとしての立ち振る舞いを見れることは、そのようなことを完全に凌駕する。あなたが何らかの形でクリエイティブな仕事についているならば、見る価値がある。いや、そんなことはどうでも良い。ポップの申し子であり、一時代を飾ったマイケルジャクソンの曲を少しでも好きならば、彼の最後のパフォーマンスであるこの映画を見るべきだ。

映画はオーディションに受かったダンサーのインタビューから始まる。おそらくオーディションの発表直後のインタビューなのだろう。皆、興奮している。涙ながらに話しているダンサーも多い。最後にインタビューされたダンサーの言葉が印象的だ。正確には覚えていないが、次のような話だったと思う。「人生って楽しいことばかりじゃないだろう。辛かったり。なんか生きている証が欲しかったんだ。これがそれだ。This Is It」。僕はこの映画を3度見た(あぁ、気狂いだ)のだが、2度目以降はここで彼がこういうことがわかっていても、いや、わかっているからこそ、彼がロンドンでパフォーマンスを見せることも、その彼が生きる証を取り戻せたマイケルジャクソンももういなくなってしまっているということも含めて、それでも、「これがそれだ。This Is It」と言えるに違いないことを思ったりして、すでに泣きそうになる。

この映画は愛の映画だ。完全を目指すマイケルジャクソンは観客が望んでいるものを把握しており、それを最高の形で届けようとする。それは時に、スタッフとの間で軋轢をうむ。だが、マイケルジャクソンからの指示は極めて愛にあふれたものだ。言葉、仕草、そしてところどころに見せるホスタピリティ。また、稀代のポップスターだからこそできるバックミュージシャンへの心遣い。インナーヘッドフォンがあわなかったときのスタッフへの指摘、女性ギターリストのオリアンティパナガリス(Orianthi Panagaris)がソロを行うときのアドバイスなど。すべて愛に溢れている。

最高の質のものを作るには、個々の素材が最高であることはもちろんであるが、それを組み合わせた際に最高にならなければならない。オールスタープレイヤー軍団が必ずしも強いとは限らないように、組み合わせによって個々の力が殺されることもあれば、倍になることもある。最高を求めるクリエイターとしてのマイケルジャクソン、そしてそれを支えるケニーオルテガ、さらにはそれぞれのプレイヤーや担当ディレクター。モチベーションを高く維持し、そして結果を出し続けるためには、互いへの敬愛と強い主導力が必要なこともこの映画から分かる。

結果として、この映画はロンドン公演そのものを体験できる、マイケルジャクソンがいなくなり、ライブを行うことが不可能になった今では、唯一のものだ。もし生きて、ロンドンでライブが行われたいたらと想像すると、切なくなる。I wish you were here - あなたにここにいて欲しい。特に好きでもなかったはずの僕がマイケルジャクソンに対して、そこまでの感情を持てるようになったのも、この映画のおかげだ。

ここまで1つにまとまったチームがロンドンへの出発直前に、すべてが無になったことを知ったとき、どのような状況になったかは考えたくも無い。救いは、追悼式典でのケニーオルテガのスピーチがとても素晴らしく、そしてミュージシャンたちのマイケルジャクソンの遺志をつぐかのような演奏が感動的だったことだ。



愛という言葉は日本語では時として安っぽく感じてしまうし、照れくさいこともあって、自分ではほとんど使うことはない。だが、彼がてれもせずに、すべてを「愛だよ。L O V E」と繰り返し言うことにはさすがに影響される。

今年の2月に「エコロジーなんてクソ食らえ!」というエントリーを書いた。そこでは、企業や国のエゴの材料にされる環境問題を指摘し、自分はエコロジーなんてまったく興味が無いことを書いた。だが、僕はもともと単純だ。この映画を見て、考えが変わった。今でも、環境保護運動をすることで地球が救えるかどうかは疑問だし、それが最優先のことかわからない。だから、僕は今後も協力する/参加する環境保護運動は選ぶだろう。もしかしたら、団体で行動するようなものには一切参加しないかもしれない。だが、マイケルジャクソンの地球や自然への愛からわかったことは、これはすべて愛するが故の行動なのだということだ。誰しも、美しい自然を見ていたら、それを愛しく思うだろう。それを愛する人にも見せてあげたいと思うだろう。僕はパタゴニアが好きだ。残念ながら行ったことはない。だが、そのパタゴニアの氷河が無くなると聞かされればどうにかしたいと思うだろう。あの美しい氷河を子孫に残したいと思うだろう。自然への愛を通じて、人は優しくなれる。人の愛も自然に囲まれれているからこそ育まれるものなのかもしれない。

This Is It - これがそれなんだ。僕もそう言えるものを持っているだろうか。

マイケル・ジャクソン THIS IS IT(特製ブックレット付き) [Blu-ray]