江國香織さんの小説は旅先、出来れば海外のホテルで読むと良い。少しの非日常が、江國さんの描く男女の恋愛ストーリーを、もしかしたら自分が当事者になれたかもしれないと身近に感じさせ、いつもいる周りの人がいないという異国での心細さがよりストーリーを心に届かせる。
この「落下する夕方」も先週の北京出張の際に持参し、ホテルで読んだものだ。実際には、成田から北京の機内でかなり読めてしまったのだが、機内で読み終えてしまうのがもったいなく、途中で読むのをやめ、北京のホテルで時間を持ちあましたときのためにとっておいた。
恋人と暮らしていた女性が急に彼から別れを告げられ、その後、その彼の新しい彼女との自宅での同居が始まるというストーリー。これを恋愛小説と呼ぶのが適切かどうかわからない。彼の新しい彼女、華子がいったい何者なのかは最後までわからないし、意外に感じるが、良く考えるとそのような結末を想定しながら読んでいたのかもしれないエンディングも恋愛小説らしくない。
ただ、通常の男女の恋愛という枠だけでは語れない、人を好きになることというのをこの小説は思い出させてくれる。特に何をしてくれるというわけでもないが、息吹、語り口、仕草、そういったものをすべて含む存在そのものが心地よく、失ったときの喪失感が大きい人というのは現実世界でもいる。いや、いないかもしれないが、いるように感じさせてしまうのが江國さんのすごいところだ。
落下する夕方 (角川文庫)
江國 香織
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ちなみに、この小説にはいくつかの音楽が登場する。Pink CloudやCharが登場するたびにわくわくしてしまったり、主人公の梨果の歌う中島みゆきのキツネ狩りの歌は微笑ましく感じた。キツネ狩りの歌のキツネは華子の自然に生きる姿を想起させた。
今回、このブログを書くために、Amazonで検索したところ、これは映画になっていたらしい。原田知世が主役の梨果で、菅野美穂が華子。申し訳ないが、思いっきり違和感がある。原田知世は私の場合は時をかける少女などの角川映画時代のイメージが脳裏にこびりついてしまっているので、どんな役をやられても、素直に見ることが出来ない。菅野美穂の華子というのはちょっと小説とはイメージが違う感じだ。もっとも、この映画は小説とはストーリーが違うようなので、別のものとして見ると良いのかもしれない。
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