夏休みとくれば、読書感想文のための課題図書だ。
中高生に勧めるならば、もしくは中高生に戻ったならば、という観点で本を選んで読んでみた。
1冊目が、「芸人学生、知事になる」。いわずと知れた、宮崎県知事東国原氏の本だ。彼がそのまんま東だったときの印象はほとんど無いのだが、本書を読んで、彼の不祥事を思い出した。
本書でも、芸人にとっての女性問題は芸の肥やしだと考えられていたという記述があるが、私もそう思っていた。こういう言い方をすると失礼かもしれないが、一般社会から逸脱した人こそが芸人であり、芸人にはそのような型破りなところを求めていたのが過去の日本だった。だからこそ、差別的な芸も日本の伝統的な芸として許容されてきていたのではないか。この状況に変化が生まれたのは横山やすし氏が芸能界から追放されたときのように感じる。横山氏の場合は限度を超えていたのかもしれないが、ほぼ時を同じくして、芸能人に一般人代表として振舞って欲しいという国民が大多数となってきたのではないだろうか。横山氏の場合はかなり極端であるが、本書の筆者である東国原氏の場合は法に触れたわけでもないのにも関わらず、あきらかに一般大衆により裁きを受けた形であった。
本書では、この不祥事により引きこもり状態となった筆者が、その中から本来の自分のやりたかったことを見つけ出し、大学入学~卒業を果たすまでが書かれている。筆者は早稲田大学の第二文学部を経て、政治経済学部に再入学をする。本書はそこで終了している。あとがきで知事となった後のことが触れられている程度なので、タイトルにやや偽りあり。実際には、既刊の「芸人学生―僕が学びつづける理由」の改訂版だそうなので、そのようなつもりで読むほうが良い。そうでないと、中の記述の整合性がとれない部分が多くある。つまり、「現在XXXであるが」と書かれていても、その「現在」は本書出版の時期ではない。「芸人学生―僕が学びつづける理由」が書かれた2004年だ。どうせ「知事になる」と題名を変更するくらいだったら、もう少し本文のほうにも手を入れて欲しかった。筆者は多忙で、そのような時間がとれないかもしれないが、このくらいなら周りの人間や編集者でも可能だろう。残念な手抜きだ。
本書で、筆者が書いていることも、限りなくストイックなまでの訓練だ。家庭を守るため(当時はまだ離婚していなかった)の仕事、学生としての勉強、アスリートとしてのジョギング。平均睡眠時間が2時間以下という話も出てくるが、これは一種の中毒症状だと思う。何かを極める人は一種の中毒患者だという話も良く聞く(私が言っているだけかもしれない)が、これはこれで本人が幸せならば、悪いことではない。ただ、周りはたまったものではなかったかもしれない。ちなみに、睡眠時間2時間というのは「仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか」からするとありえないレベルだ。「仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか」では最低6時間、できれば8時間を勧めている。
ここ最近読んだ本はみんなストイックなまでの訓練について書かれたものが多い。前にも書いたがこの考え方は嫌いではない。だが、ここまでストイックに徹することで失うものも多いことは容易に想像できる。ただ、そのような書籍-本書や「村上式シンプル英語勉強法—使える英語を、本気で身につける」、「仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか」-での「いくつになっても遅すぎることはない(けど、早いに越したことはない)」というメッセージは非常にポジティブだ。良い刺激として考えたい。
芸人学生、知事になる
東国原 英夫
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2冊目の「デジタルの仕事がしたい」は「岩波ジュニア新書」の本。中高生向けとは思えないくらいしっかりした内容の本が多く、社会人でも勉強になると知人から教えてもらった「岩波ジュニア新書」だが、この本は社会人向けではない。もしくは社会人だとしても、あまりウェブ関係やデジタルコンテンツの業界に詳しくない人向けだろう。だが、それでも文体が思いっきり高校生向けにくだけて書かれているので、普通の社会人なら、ちょっとひいてしまう(もしくは醒めてしまう)だろう。
デジハリ(デジタルハリウッド)の杉山氏が著者代表(実際には中のほとんどは業界を代表する人の言葉なので、編集者か?)となっていることからわかるように、ここでいう「デジタル」とはウェブ業界もしくはデジタルコンテンツ業界のことを指す。ITではない。しかも、理系というよりは文系中心の話。本書が書かれたのが、2005年なので、内容もやや古い。
ウェブディレクターやメディアアーティストなどなどおしゃれな名前の職種が並ぶ。このような新しい職種の人たちの仕事内容とキャリアヒストリーを紹介するというのが本書の趣旨だ(よね?)。それにより、注目の花形(なのか?)職種の内容をもっと理解してもらい、どのような勉強をすれば、このような職種につけるかが理解してもらえれば、業界もさらに成長が臨める。
ちょっと皮肉っぽく書いてしまったが、国際競争力もあるデジタルコンテンツに優秀な人材が集まることは悪いことではない。社会人でも実際の仕事内容が良くわからないこれらの職種の紹介も必要十分。上に書いたように、社会人が読むと、恥ずかしくなってしまうようなトーンの書き方をされてしまっているが、中高生向けにはこれで良いのかも(うーん、でも私が高校のころは思いっきり背伸びしていたから、こういう本は絶対に読まなかった。私の知っている大学生もおそらく高校時代にこんなあきらかに中高生向けのトーンで書かれた本は読まなかったろう)。
これは文系向けの本なのだが、理系向けに、もっとディープなプログラミングやアルゴリズムの紹介などを書いた本があったら素敵だ。前に流行った「XXXは何故動くのか」シリーズのような解説のような感じか。または、有名エンジニアの学生時代のエピソードなどを紹介してもらっても面白いかもしれない。
デジタルの仕事がしたい (岩波ジュニア新書 (515))
杉山 知之
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