2012年5月6日日曜日

ソーシャルゲームのすごい仕組み

ソーシャルゲームで導入されている「コンプガチャ」が景表法(景品表示法)の懸賞にあたり、規制対象になるということが昨日報道された。

ソーシャルゲームどころかゲームさえ全くやらないので、あまり詳しくないのだが、コンプガチャとは街にあるガチャガチャ(100円とか200円でカプセルに入ったオモチャが出てくるあれだ)のような感覚で、安い価格で買えるアイテムのことらしい。どのようなアイテムが出てくるかわからないところもガチャガチャと同じ。コンプガチャのコンプとはComplete(完成させる)の略で、購入した複数のアイテムである組み合わせを完成させると、さらに希少なアイテムを入手できる。

ソーシャルゲームの社会的意義については、自分がゲームをやらないこともあり、まったくわからない。このコンプガチャにしても、そもそもゲームのしくみにしても、出玉調整を意図的に変えられていて、しかも規制がない悪徳パチンコ店で遊んでいるようにしか見えず、昨年にはその思いを「ソーシャルゲームの社会的意義」とブログ記事にしたほどだ。

ソーシャルゲームに人が夢中になる原理や業界、そしてメジャープレイヤーであるGREEやDeNAなどについて、極めてわかりやすく解説した本が「ソーシャルゲームのすごい仕組み」だ。

ソーシャルゲームのすごい仕組み (アスキー新書)
ソーシャルゲームのすごい仕組み (アスキー新書)

本書はソーシャルゲームを俯瞰するところから始まり、ソーシャルゲームが人気を博するまでの道程、ソーシャルゲームのマネタイズ方法、そこに隠された影の部分など、恐らく、現在ソーシャルゲームについて知りたいと思っていることがすべて網羅されている。

私は(繰り返しになるが)自分でゲームをやらないため、どのようなゲームがあるか、どのような人たちがゲームをしているか(30代以上が40%を占める。またゲーム内アイテムを買っているのも可処分所得の多い40代以上だ)の紹介から始まってもらったのは大変ありがたかったし、日米のゲームの違いについて知れたのも大変役立った。日本のRPGはJRPGなどと呼ばれて、海外ではあまり人気がないことなど知らなかった。また、これは自分の仕事柄知ってはいたが、海外でのソーシャルゲームといえば、PCからブラウザで行うものがほとんどで、携帯(スマートフォン)で行うものはまだ少数である。

ソーシャルゲームのマネタイズは、今まで無料が当たり前のWebの世界で、初めてと言って良いほど、コンテンツでの課金でビジネスを成立させることに成功している。それは、アイテム課金だ。そこに至るまでには、ゲームが高機能化を進めるのと並行して、当初持っていた「物語性」を分離していったことなどがある。

先ほど、悪質なパチンコ店で絶対に店舗側が最終的には儲かるように出玉調整が行われているような感覚だと話したが、それは「プレイヤーのゲームへのモチベーションをいかに刺激し、高め、維持していくか」という「ゲーミフィケーション」と呼ばれる手法によって実現される。

Richard Bartleによると、ゲームプレイヤーはアチーバー/Achivers(ゲームのミッションをクリアすることを目的とするタイプ)、エクスプローラー/Explorers(ゲーム内を探索し、好奇心を満たすことを目的とするタイプ)、ソーシャライザー/Socializers(ゲーム内で生まれるコミュニケーションを楽しむタイプ)、キラー/Killers(ほかのプレイヤーとの対戦などを通じて勝ち上がっていくことを目的とするタイプ)の4種類に分類されるが、それぞれのタイプのプレイヤーの欲求を満たすことがソーシャルゲームに求められていることである。
http://www.chickgeekgames.com/2011/01/know-how-healthy-player-base-ecology-or.html より
従来のゲームにおいて、プレイヤーの興味を引きつけ、プレイ開始後も完了まで遊び続けてもらうようにゲームを制作するのはかなり難しいことであり、ゲームクリエイターの能力に依存するところが多かった。しかし、ソーシャルゲームではWebの手法を用い、リリース後にユーザーの行動を分析し、適宜ゲームを最適化していく。

今流行している「ビッグデータ」の有効活用であるが、一方で、それが故に事業者側に行き過ぎを防止するようなしっかりとした指針なり仕組みが必要である。

本書では、規制が入ると昨日報道されたコンプガチャを始め、現在のソーシャルゲームの社会的な問題も解説している。執筆時には、「ゲームの利用規約で禁止されているもので、違法性を持つものや国による規制が求められる要素というのは限られてくることがわかる」と書いており、コンプガチャが景表法の懸賞に当たるのではないかとの指摘は行われていない(ただし、筆者のFacebookなどのコメントを見ると、なんらかの情報は得ていたが、執筆時には明かせなかったように見受けられる)。

筆者は海外展開において、日本よりも規制の厳しい国が多いことをあげ、マネタイズをソーシャルゲーム本体と一体で考えないほうが良いのではないかと次のように指摘する。「ソーシャルゲームそのものと、マネタイズの手段であるアイテム課金やガチャシステムをワンセットで考えていいのか、という疑問がでてくる」。最終章である第5章「ゲームの未来」では昨年南相馬で行われた「福島Game Jam」を紹介し、ソーシャルゲームそのものの可能性を言及する。

結局、本書では、マネタイズとして健全な形は、では何かという疑問には答えられていない。しかし、これはそう簡単に出るものでもない。むしろ、これから考えなければいけないことであろう。特に、昨日以降、違法性があることが指摘された今であれば、なおさら。

なお、本書は、著者のまつもとさんから献本いただいた。まつもとさん、ありがとうございました。