2009年7月5日日曜日

カラフル

直近にレビューした「つきのふね」の作者の森絵都さんの小説がもう1冊自宅にあったので読んでみた。「カラフル」。これも素晴らしい。

実はこの本、自宅にあったのは気づいていたので一度読み始めていたのだが、出だしのポップな感じが趣味に合わないのと、天使からのチャンスを得て自殺した少年の身体に戻される魂というファンタジーな感じが好きになれそうになく、途中で止めてしまっていた。冒頭は次のような感じだ。
 死んだはずのぼくの魂が、ゆるゆるとどこか暗いところへ流されていると、いきなり見ず知らずの天使が行く手をさえぎって、
 「おめでとうございます、抽選にあたりました!」
 と、まさに天使の笑顔を作った。
主人公の魂が宿ることになった少年、真が自殺したのは恋する女の子が中年オヤジとラブホテルに入るのを見てしまい、そして自分の母親もフラメンコの講師と不倫しているのを知ったからだ。父親も利己的だし、兄貴は無神経で意地が悪い。自身も社会との距離感の取り方に悩む。そんな自分と周りの世界に絶望して彼は自殺した。

一時的に真の身体にホームステイしているだけの主人公は当初こそ自由気ままに、性格が変わったことに戸惑う同級生に構わず、新生真として楽しんでいたが、そのうち自殺の理由であった周りの人たちの本当の姿を知っていくことになる。
 その夜はなかなか眠れなかった。
 父親の話。満の話。増えつづけるとりかえしのつかないものたちの数や、にわかにわいてきたホストファミリーをだましていることへの罪悪感。それらのすべてがぼくを悶々とさせていた。
 今日という一日は、代役で引きうけるにはあまりにも荷が重すぎる。
 ぼくは無念でたまらなかった。こんなに残念なことはなかった。
 今日の父親の話は、本物の真がきくべきだった。
最後の展開は予想できる人も多いのかもしれないが、単純な私はその展開に驚いた。

表面からだけではわからないその人の悩みや苦しみ、そして優しさ。そのようなエピソードの一つ一つに涙した。

私も人付き合いがあまり得意ではない。深く知り合えば知り合うほど嫌なところも見えてしまい、傷つけ傷つけられることも怖い。ちょっと苦手意識を持つ人にはできるだけ近づかないようにしてしまう。何気ない自分の一言が人を傷つけてしまったことも数多くあるし、その逆も多々ある。ついつい不安が増し、人付き合いに慎重に過ぎるほど慎重になる。本書の中での次の言葉はそんな自分への応援メッセージだ。
 「ホームステイだと思えばいいのです」
 「ホームステイ?」
 「そう、あなたはまたしばらくのあいだ下界ですごして、そして再びここに戻ってくる。せいぜい数十年の人生です。少し長めのホームステイがまたはじまるのだと気軽に考えればいい」
本書の中では宗教的な色彩は微塵も無かったが、良く考えると、この考え方は輪廻転生を信じる宗教が言うことと同じだ。もしかしたら、宗教が人々に信じられているのは単純にこの考えがあるからなのかもしれない。

カラフル (文春文庫)
森 絵都

4167741016

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