2022年3月2日水曜日

全人類が読むべき書籍「人を動かす」


現在、私はスタートアップから大企業、さらには個人に対しても色んなアドバイスをすることを生業としている。

アドバイスの多くは私自身の経験に基づくものである。自分で試行錯誤した結果に見出した知見を形式知化し、それをお伝えしている。

そのような経験則に基づくアドバイスだが、後になって、実はすでに確立された知見だったことを知ることがある。

その1つに、自分の中である結論を持っているときでも、相手の口からその結論を言わせるようにするというものがある。誰から見ても正しいことが明確な場合は、そんなまどろっこしいことはせずに指示すれば良い。しかし、説明しても納得してもらえるかわからないものの場合は、いきなり指示を与えても自分ごとにはならない。勢い、上司のための仕事となり、やらされ仕事となる。

そのような場合は、こちらから結論を一方的に伝えるのではなく、自ら考え同じ結論を導き出して貰う方が良い。この方がいわゆる「腹落ち」した形となる。

文字にすると、誘導尋問的で、なんとも嫌らしい感じになるが、実際には相手からその結論を引き出す目的で話しているうちに、別の結論が導き出されることもあるなど、一方向で結論を共有するよりも良いことが多い。

このような指示の出し方や目的の共有の仕方を私オリジナルだとは思ってもいなかったが、実は時代を超えた名著にそのものずばりのことが書かれていた。

その書籍が「人を動かす」だ。

この本は前から知っていたが、怪しい自己啓発本と思っており、手に取る気にならなかった。今となっては恥ずかしい話だ。

偏見を抜きにして読んでみたら、今まで無意識のうちに実践していたことが見事に言語化されているし、50年以上も生きていながら意識してもいなかったことを今さらながらに気付かされるなど、さすが名著と言われるものだけのことだと唸りまくった。

検索すれば、本書を要約したものがいくつもある。また、要約本や漫画版もあるので、内容について知りたければそれらをあたって欲しいが、個人的には本書は要約ではなく、オリジナルを読むべきだと感じた。


理由は、一つ一つの原則について、それを裏付ける豊富なエピソードがこれでもかとばかりに展開されているからだ。これは本書に限る話ではなく、海外のビジネス書や自己啓発系の書籍に良くある典型的な構成だ。豊富な裏付けデータが展開されるので、読むのに時間がかかってはしまうが、それが故に説得力が増す。このような処世術や今で言うライフハックはともすれば「俺が考えた最強の」になってしまいがちだ。いや、そうでなかったとしても、読者からすると、それは生存者バイアスではないか、サンプル数=1で語られてもなんだかなーとなってしまうこともある。しかし、本書のように多くの事例で裏づけられると、納得せざるを得ない。また、具体的にどのように活用すれば良いか考える材料にもなる。

また、この事例が本書が書かれた時代よりもさらに古いものとなるため、今となっては歴史上の偉人のエピソードを知ることにもなり、ちょっとした歴史物としても楽しめる。ちょっと脱線するが、私は本書の著者デールカーネギーを鉄鋼王カーネギー(こちらはアンドリューカーネギー)と同一人物と勘違いしていたが、別人だ。本書の中で鉄鋼王カーネギーのエピソードが語られる段になり、初めて気づいた。自分の無知にも恥ずかしいが、カーネギーに限らず、米国の有名企業の創業者のエピソードなども知ることができるのは本書の隠れたもう1つの魅力だろう。

ここまではひたすらベタ褒めしているが、付録となっている「幸福な家庭をつくる七原則」は読む必要は無い。古い価値観(男女観や家庭観)に基づく内容となっている。歴史を知る意味で読んでも良いと思う人もいるかもしれないが、私は読んでいて不快になってしまった。

しかし、最後に後味の悪い付録があることを除けば、やはり名著だ。

人に何かを働きかける必要のある人ならば是非読んで欲しい。上司となった人、上司に何かをして欲しい人、私の仕事に関係するところでは、プロダクトマネージャー、プロジェクトマネージャー、エンジニアリングマネージャーなどマネジメントと名前のつくポジションの人、そのようなマネジメントの人に自分の意向に即して動いて欲しい人など、まぁ、全人類だ。純粋に読み物としても面白いし、お勧めだ。