2021年3月1日月曜日

御社にそのシステムは不要です。

 一昨年に発売となった自著「ソフトウェア・ファースト」では、「手の内化」というトヨタ用語を用いることで、ITを活用するプロダクトや事業における内製化の必要を説いた。ただし、内製化が目的ではない。「手の内化」という言葉で言い表すように、ITが必須となったプロダクトや事業を推進するに際して自らが制御権を持つことが重要であり、その結果として、内製化率が高まっていくこととなるだろうと書いた。


この「ソフトウェア・ファースト」は大企業に勤務する方々のみをターゲット読者としたわけではない。実際、スタートアップの方々にも読まれている。ただ、自社が制御権を持つためには、一部内製化を行うことを視野に入れるほどの組織であることを暗黙の前提としていた。となると、そこまでの投資を行える企業は当然限られるのも事実だ。

対象が主に社内システムであったり、ITを活用するとは言っても、まだその用途は効率化が中心であったり、なによりも組織規模がまだ大きく無い場合などは、自社に専任の担当者を何人も置くわけにはいかず、どうしても外部のパートナー活用が中心となる。しかし、ここで丸投げをしてしまっては、書籍で書いている最も避けるべきアンチパターンに陥ることになる。

「ソフトウェア・ファースト」を出版したあと、さまざまな人から相談を受ける中で、回答に窮したのがこのような当初想定もしていなかったような組織に属する方々からの相談だ。内製化を考えるほどのシステムでもない。SaaSを組み合わせたり、PaaSを用いて小さな機能を実装するだけで良い。

「ソフトウェア・ファースト」の考えが間違っているわけではないが、書籍に書かれている内容をあまり参考にして頂けない、そんな方々は確実にいた。しかも、かなりの数で。

自分がそのような領域に詳しくなく、正直言うとあまり興味もなかったこともあり、そのようなリクエストを見て見ぬ振りしていたのだが、今回、そのような方々にも参考になる書籍が発売された。「御社にそのシステムは不要です。中小企業のための〝失敗しない〟IT戦略 」がそれだ。

書かれたのは筆者の知人である株式会社ジョイゾーの四宮靖隆氏。四宮氏との出会いは2016年の熊本地震での支援活動だ。ボランティアでの被災地向けのシステムの開発に名乗りをあげて頂き、kintoneでいくつかシステムを作って頂いた。その後、筆者が疎いSI業界についてなど色々と教えて頂く機会もあり、携わる分野は同じIT業界でもやや異なるものの、ITを自らの武器にして欲しいという同じ想いのもと情報交換をさせて頂いたりした。

この「御社にそのシステムは不要です。」を最初手にとったときは、自分が普段関わっているお客さんには無縁のものだろうと思った。自分の興味の範囲とも重ならないのではないかと思った。しかし、その予想は良い意味ですぐに裏切られる。

  • ITは手段。
  • 担当者にITの知識は必須ではないが、熱量は不可欠。
  • 担当者だけではなく、経営者の熱量が組織を動かす。
  • 課題発見が重要。なにに困っているかを単純に聞くだけではダメ。
  • 無理に統合しないで良い。
  • 比較すると迷うことになるので、とっとと始める。

なるほど!と付箋紙を貼っていったら、受験生のように付箋紙だらけになってしまった。筆者も同じことを思っていたと負け惜しみの一つも言いたくなるが、実際、同じことを思っていたとしても、どこから手を付けて良いのかわからないという人々への言葉は持ち合わせていなかった。今度からこのように伝えてみよう。いや、この本を読んでもらおう。

この本は「中小企業のための」と副題に入っているが、中小企業だけでなく、大企業でも十分通用する。筆者も最近、DXをやれと経営者から言われたという企業のお手伝いに関わったことがある。失礼ながら、その会社は経営者も経営者から指示された担当者もなにをやって良いかわからない状態だった。そんな状態で良くプロジェクトが進められるもんだと感心したほどだ。そんな「雰囲気で」DXをやっている企業はおそらく日本に山程あるのだろう。

ネガティブな書き方になってしまったが、雰囲気でも構わない。デジタル技術での変革であるDXの重要性を少しでも感じ取ったなら、是非進めて欲しい。本書はそんな方々のとても良い指南書となるだろう。