2015年10月30日金曜日

僕の「天職」は7000人のキャラバンになった マイクロソフトを飛び出した社会起業家の成長物語

先週末、Unreasonable Labs Japanという社会起業家支援プログラムにメンターとして参加した。

その際、どのように企業からの支援を求めるのが良いかを相談してきたチームに対して、一般企業のビジネスと同じようにMeasurableなGoalを設定し、定期的にTrackすることと、支援してくれる企業に対しそれをAccountableに示すことの重要性をお伝えしたのだが、話しながら、一冊の本を思い出し、それも紹介した。

紹介した本はマイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になっただ。ルーム・トゥ・リードという途上国の子どもたちの識字率をあげる活動を立ち上げた元マイクロソフト社員、ジョン・ウッドの話なのだが、その方法がまさに企業で必要とされていたビジネスを成功に導く方法そのものなのだ。

詳しくは以前書いたブログ記事を読んで欲しいが、Result Oriented(結果重視)やData Driven(データに基づく計画)など成長する企業が行っている手法を社会貢献(彼は慈善事業と呼ばれるのを嫌う)に活かしている。

週末のイベントでは本の正確なタイトルを忘れてしまっていたので、Amazonで調べてから後日お知らせしたのだが、その時に続作が出ているのに気づいた。それが、この 僕の「天職」は7000人のキャラバンになった マイクロソフトを飛び出した社会起業家の成長物語だ。早速購入して読んでみた。

前作では、ルーム・トゥ・リードを立ち上げるあたりまでについて書かれているが、本作はその後が書かれている。組織の成長と活動の拡大に伴う苦労やアフリカでの裏切り、自身のCEOからの卒業など、さまざまな展開があるが、書かれているテーマは一環している。社会貢献事業においても必要とされることは、数字を元にした計画と遂行、そして透過性のある説明責任というマイクロソフト(マイクロソフト以外の多くの企業でも同じだろう)で必要だったことと同じことがわかる。場面は変わったが前作と同じように、素早く判断し、時には見直し、前進していく姿が書かれる。

ルーム・トゥ・リードの最初の活動は本がほとんど無い発展途上国の学校の図書館に本を寄付することなのだが、実は前作を読んだときに疑問に思っていたことがあった。それは寄付される本は現地語では無く英語であることが多いのではないかと想像されるのだが、それで果たして現地の子どもたちは読めるのだろうかと。

この心配はあたっていた。ネパールで図書館を利用している子どもたちにアンケートを取ったところ、52%の子どもたちがネパール語の本があればもっと利用すると答えていたのだ。この結果を見て、ジョン達は自分たちに次のように問いかける。
データを収集したら、目の前の厳しい現実を、感情も否定も交えずに見すえること。データと現実を照合して、データが自分に語りかけていることがどんな内容でも認めること。
現地語の本があればもっと利用するという子どもたち。しかし、現地語の本をもっと購入すれば良いという単純な話ではない。予算は余っている。だが、そもそも現地語の子ども向けの本が存在しないのだ。彼らはこれを自分たちで現地語の児童書を出版するということで解決する。

結果を見て、即座に対応を考える。企業で当たり前に行うべきことがここでも行われている。

さらには、当初建てたゴールが果たして本当に正しいのかさえ疑問を呈し、さらにその改良を行う。見た目の成功に満足せずに、自分たちの行うべきことの本質を常に見つめなおしているのだ。

彼らの活動は、短期的には図書館を建て、本を充実させることだ。実際、これをTrackableな指標としてきた。図書館の数、書籍数。これをカウントする。しかし、本当に計測すべきものは、識字率や読書習慣の向上である。
アドバイザリー・ボードのあるベテランメンバーは、建てた学校や図書館の数、出版した本の数で組織を評価するだけでは足りない、と指摘した。読み書きができるようになった子どもは増えたか、生徒が読む本の数は増えているか、読書の習慣が根づいているかなど、達成した数字の先を評価する必要がある。
これは組織のDNAとも言うべきミッションや組織名にも影響する。
「批判的な友人」のひとりが根本的な真実を突く簡潔な一言をくれた。
「『ルーム・ウィズ・ブックス』という名前にしなかったのには、理由があるじゃないか」

この本の中には、「バルマーな人」という表現がたびたび登場する。マイクロソフト在職時の上司であるマイクロソフトの前CEOのスティーブ・バルマー的な人(もちろん尊称だ)のことをこう呼んでいるのだ。マイクロソフトは今V字回復を遂げており、バルマーはともすれば方針転換できなかったCEOとして厳しい評価が下されることも多いのだが、彼も言うように素晴らしい人物だったと私も思う。本題とは関係ないが、もう少し再評価されても良いのではないかと思う。

最後に社会起業やNPO活動を行っている人のために、至言のメッセージを引用して終わりたい。
21世紀のNPOらしい強みは、まさに経営戦略と呼ぶべきビジネスモデルだ。成果を数字で評価すること。間接費を減らして寄付金を最大限に活用すること(投資の費用対効果)。地域社会(顧客と市場)の当事者意識を高め、プロジェクト(商品)の持続可能性を高めること。
手前味噌になるが、前作 マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった のレビューとなる私の以前のブログ記事も良くまとめられていると思うので、是非参照して欲しい。

僕の「天職」は7000人のキャラバンになった マイクロソフトを飛び出した社会起業家の成長物語
ジョン・ウッド 矢羽野 薫

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