友人のデザイナーから昨年、村上隆氏のことを聞いた。アート界ではタブー視されているビジネス(=マネー)との関係に正面から取り組んでいる芸術家&起業家だと、その友人は教えてくれた。日本のオタク文化を輸出することで世界から注目されているらしい。テレビ東京のカンブリア宮殿にも出演していたので、知っている人も多いだろう。
芸術起業論
この「芸術起業論」はその村上氏が持論を展開している本だ。本としての出来は正直あまり良いとは思えない。氏の気合は感じるが、同じような論理が最初から最後まで何回も繰り返されている。氏の米国進出から今に至るまでを時系列に解説し、それに重ねるように、氏が今のように芸術にもビジネスの視点が必要なことを思うにいたった過程を書くほうが数倍良かったろう。
途中、「海洋堂」に等身大フィギュアの製作を依頼し、徹底的にこき下ろされるところなどは臨場感のある展開であり、読み応えもあった。このような流れが全体にあったらと思う。
氏の言う「ブランドを確立するためには、ストーリーが必要である」というのは企業だけでなく個人にとっても当てはまることだ。この点、世界で活躍している氏の発言は説得力がある。
ただ、芸術をここまでビジネスと結びつけることに対する抵抗はやはり強いようで、アマゾンのカスタマーレビューでも賛否両論あった。
氏のことをほとんど知らなかったので、本の最初に掲載されている氏の作品の写真を見るだけでも楽しかったことを加えておく。