2008年12月18日木曜日

新宗教ビジネス

多くの宗教関係の本の感想を書いているためだと思うのだが、このブログに宗教関係のキーワードの検索結果からたどり着いている人が、少なからずいる。残念ながら、個別の宗教については、ここでは取り上げない。小心者なので、この方針は変えないつもりだ。この間の酒席で、仏教系の某宗派を批判してしまったのは反省している。その団体の公称信者数を信じれば、あの席に1人くらい信者がいてもおかしくなかった。もうしない。批判できるほど詳しくもないし。

私が宗教に興味があるのは、1) 人が宗教を信じるようになる、そのメカニズムを知りたいからであり、2) そのメカニズムを応用したいからだ。その意味では、在来宗教よりも新宗教のほうが参考になる。

この新宗教ビジネスでは、宗教が資金を集める手法が解説されている。著者はおなじみ、私の好きな島田裕巳氏。

まず、宗教法人についての誤解が解かれる。もしかしたら、私と同じように誤解している人もいるのかもしれないが、宗教法人は認可されるものではない。認証されるだけだ。認可は国により規定された基準に照らし合わせ審査されるものだ。学校法人などがその例だ。一方、宗教法人はもっと単純な手続きにより認められる認証に過ぎない。そのための法律が「宗教法人法」で、ここでは「礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維持運用し、その他その目的達成のための業務及び事業を運営することに資する」ことが謳われているくらいだ。

宗教法人というと、税制優遇があるため、豊かな活動資金を有していると思い勝ちかもしれない。だが、それは多くの檀家を抱える大寺院や新宗教、観光客を集めるような歴史的な寺院などに限られる。もともと寺院(仏教)や神社(神道)というのは、その土地の住民や有力者に請われて設立されていることが多く、昔は設立時に小作付きの農地が与えられたりしていたらしい。だが、近代化や政教分離により、土地との結びつきが弱くなり、経済基盤も失った結果、税制優遇があっても、少なからぬ宗教法人は実はいつ廃業してもおかしくない状態らしい。昔は住民が自らのために、経済援助を行っていたその土地の宗教というものが、いまやあるイベント(仏教の場合は不祝儀、神道の場合は祝儀)でしか請われなくなっている。

一方、新宗教の場合は事情は異なる。必要以上に活動資金が集まったために、美術品や骨董品を買いあさったり、シンボリックな建造物を建立することが多い。そのビジネスモデルが本書で詳しく解説されている。

本書で紹介されているビジネスモデルは以下の4つだ。
  1. ブック・クラブ型 - 出版物(新聞や雑誌、書籍など)で収入を得る仕組み
  2. 献金型 - 「お布施」に代表される信者からの献金で収入を得る仕組み
  3. スーパー・コンビニ型 - いくつものサービスを用意し、それぞれを販売することで収入を得る仕組み
  4. 家元制度型 - 徒弟制度のように弟子が指導に対して師匠に授業料を払うことで団体に収入があがる仕組み
この中で献金型は従来の宗教にも用いられているモデルであるが、時代遅れになってきている。少子高齢化や二世信者などが増加する中でビジネスを継続させることを考えた場合、その他のモデルやハイブリッド型が必要となっているようだ。

本書の中でも語られるが、宗教のビジネスモデルは他の心理を操作する営業手法と類似する。テレビショッピングで時間を制限し、在庫を少なめにし、飢餓感をあおって在庫を一掃する手法などは、献金を行う際に宗教団体が行うものと同じだ。また、宗教団体が新規信者獲得のために行うイニシエーションやエンロールメントは企業が新人研修などでも使われている。私は企業、特に創業者のカリスマ性が強い会社というのは、宗教だと思っている。本書にも何社か紹介されているが、日本では宗教に対して帰属意識を持つ人が多くないが、それは企業が宗教の代わりをしてきたからかもしれない。自分には宗教は関係ないと思っている人も、自分の属している企業の「宗教的なもの」を感じるようであったら、読んでみても良いかもしれない。

新宗教ビジネス (講談社BIZ)
島田 裕巳

4062820951

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本書の中に、(宗教ではないが)ヤマギシ会の話が出てくる。著者の島田氏は以前この団体に属していたのだが、最後は信じられなくなり、脱退している。だが、本書の中では、どこかまだこのヤマギシ会のコミューンに対しての憧憬のようなものを抱いているように思われる部分がある(第7章)。氏は、また再評価しているのだろうか。

参考: