2009年9月13日日曜日

みんなとは違うというみんなと一緒 ~ しがみつかない生き方 「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール と 人生の軌道修正

しがみつかない生き方―「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール (幻冬舎新書)
しがみつかない生き方―「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール (幻冬舎新書)

人生の軌道修正 (新潮新書)
人生の軌道修正 (新潮新書)

今はもう違うのかもしれないが、ちょっと前に書店に行ったとき、勝間和代さんの本と茂木健一郎さんの本が大量に平積みされていて、思わずめまいに襲われそうになった覚えがある。お二人に罪は無いし、私も何冊か読んでいるのだが、その書店にはそのほかにも数々の勉強本が並べられていた。このブログでも紹介しているように、そういう本は嫌いじゃないのだが、ここまで同類の本が一面を飾ると、圧倒されるし、なによりもそれ以外の本を探したいときに明らかに邪魔だ。人によっては邪魔を通り越して、嫌悪感を感じたり、弱い人だと脅迫されるように感じるかもしれない。唯でさえ、格差社会だし、自己研鑽をすることが求められる自己責任の社会だと声高に叫ばれるようになっているのだから。

「しがみつかない生き方」「人生の軌道修正」の2冊は、そのアグレッシブにポジティブに成功するための生き方の逆のオプションを提示する書籍だ。どちらもテレビなどでもお馴染みの精神科医の著書だというところも似ている。

病的なまでに競争を煽る現代社会に対してのアンチテーゼのような役割を果たす2冊だが、正直、たいしたことは書いていない。だが、このたいしたことではないことを当たり前にわかりやすく書いてくれているところがおそらくこの本を読むような読者が望んでいるところなのだろう。その意味では、勝間さんがやっているような書籍の世界におけるマーケティングをこれも実践した本だ。

特に、香山リカさんの「しがみつかない生き方」はしたたかにそういう読者層をターゲットにする。最終章を「<勝間和代>を目指さない」と名づけており、すべての章タイトルを帯に記載しているため、この「<勝間和代>を目指さない」も本を開かなくても目に入る。書店によっては、これをポップメッセージにしているところもあるようだ。勝間さんに憧れたけれど、自分にはできないと感じている人たちや最初から勝間さんのようにはなれないと思っている人たち。おそらくかなりの数になるだろう。その人達に向けてのメッセージだ。

だが、ここにも皮肉がある。定説と呼ばれているもの、今のトレンドとなっているもの、そういうものに縛られなくて良いというメッセージそのものがこのような形でマスに向けて発せられた途端に、それもまたマスを獲得する。一緒になれない人たちという一緒。結局、この世は群れないと生きていけない人たちの集まりなのか。

著者2名とも私は好きだし、軽い読み物としては文体も読みやすいので、メンタルセラピーが必要というほどじゃないけど、何かに救いを求めたいという人には良いだろう。当たり前のことであっても、わかりやすく第三者が言ってくれるというだけで価値はある。ただ、「XXXと言われていたけど、必ずしもそうじゃない」というのもまた別の価値観の提示、悪くいえば、押し付けであることは忘れちゃいけない。