2009年6月18日木曜日

この世でいちばん大事な「カネ」の話

評価が分かれているようだが、私はひどく感銘を受けた。人間は生きている間、カネと無縁ではいられない。別に金の亡者になれと言っているわけではないし、カネなんて汚いから気にするなと言っているわけでもない。ただ、自分の中でのカネに対するスタンスのとり方は、考えないより考えたほうが良い。本書の中にも出てくるが、日本では従来カネの話をするのははしたないという考え方があった。そのころは、今ほど格差が進んでおらず、(失礼ながら)能天気な一億総中流が成り立っていた時代だったろう。とりあえず、右に倣えをしておけば、死ぬことは無い。むしろ自分の身の程もわきまえないような稼ぎをあげたほうが損をすることもあったのではないか。

でも今は違う。右に倣えをしたくとも、どっちが右かわからないし、右にいる3人はそれぞれ全然違う服装で全然違うことをしている。結局は自分で自分のスタンスを決めるしかない。

10年近く前、日本でもITバブルがあったころ、高騰したストックオプションで一稼ぎしている某外資系社員と話したことがある。ちょっと前に退職した別の知人が高値でストックオプションを売り抜けず、損をしたという話をしていたのだが、そこで出ていた金額が私から見ると小さな国の国家予算ほどの額だったのには腰が抜けた。私がもしその会社に同じころに入社できていたら、同じくらいのあぶく銭が入ったかと思うと、残念な気がしなかったこともなかったが、一方そんな国家予算ほどのカネをもらってしまったら、どうなってしまうのかとも思った。事実、その後聞いた話では、その会社では、ストックオプション長者の多くは、あぶく銭の使い方を心得ておらず、まず時計、次に車、マンション、そして女とほとんどみんなが同じカネの使い方をしていたらしい。その後、彼らがどのような人生を送っているか私は知らない。幸せならば良いのだが、みんながみんなに金太郎飴みたいな同じ幸せな世界はないと思う。

私が入った2社目の会社と今の会社(3社目)にもストックオプションはあるのだが、私は頂上を越えてから入社している。1社目の退職は何度も繰り返されていた早期退職プログラムの合間に辞めてしまったので、私はあぶく銭とはまったく縁がないようだ。まぁ、これも運命か。

西原理恵子はこの本で、自分の半生に重ね合わせる形でカネのことを話す。

張り合う必要もないし、必要以上に自分のことをドラマチックに語る必要も無い。実際、彼女ほど激動の人生でもない。だが、私も父親が早くに病死したため、大学時代はバイトに明け暮れていた。大学3年にNEC PC9801 VX2というPCを買ったことから私の今があるのだが、これを買うために必要だった30万円ほども家庭教師で稼いだカネで買った。30万円を銀行からおろし、秋葉原にあったサードウェーブで新品のPC9801を買ったときには、初めて持つ30万円という大金での買い物にやたら緊張したのを覚えている。学費は奨学金でまかなった。大学院に行くカネは無かったのだが、行かなくて良かったと思っている。もし下手にカネがあって、同じ学科(探査工学)で大学院に行っていたら、今の自分は無かったはずだ。私は運命論者で、流されるまま生きることを良しとしている。結果論だが、大学の後半に資金がなく、社会に早く出ざるを得なかったからこそ、今のようにいつまでも刺激が多く、自由な業界で働けているのだと思う。

才能も資金も血縁も家柄も何も無く、バブルで能天気に大学をすごしてしまった人間にとって、社会における自分の立ち居地もやりたいこともキャリアパスも、そんなものは最初はまったくない。そうすると、勢い、言われたことをそのまま不器用に愚直にこなすしかない。どっかで書いたが、私はソフトウェアエンジニアで入ったはずなのに、営業サポートに配属された。はじめこそ腐りそうになったが、やってみるとこれが想像以上に面白い。また勉強にもなる。ソフトウェアエンジニアリングだけではなく、このような営業経験があることが今となっては大きな武器になっていると思う。西原理恵子も次のように言う。
でも、自分がそれをできるかなんて、やってみないとわからないよね。だから来る仕事は、わたしは断らなかった。場数を踏んでいるうちに慣れてくるし、自分の得意、不得意だってわかってくる。
西原理恵子は体当たりで自分の肌感覚でつかんでこそ初めてわかるということを説く。一方、だめだったら、失敗したと思ったら、逃げてかまわないという。逃げられないという自分を追い込むその心が次の一手を自分で封じてしまうことになる。次の一手を考えることがすなわち今やっていることが苦しかったら逃げて良いという余裕につながる。外資系3社に勤めている私は常に解雇を覚悟して働いている。クビになっても、贅沢は出来ないかもしれないが、とりあえず家族くらいは養える自信はある(*こんなことを書いているのを見られて、解雇リストのトップに載せられたらどうしよう ;-))。なんら根拠がない自信だが、それだけで心にゆとりが生まれ、生活に余裕ができ、仕事も充実する。つまりはこの社会での生存能力だ。根拠なんか無くても良い。常に行き先を確保しておくっていうことでもない。

西原理恵子は仕事についての考え方も明快だ。
 「カネとストレス」、「カネとやりがい」の真ん中に、自分にとっての「バランス」がいいところを、探す。
 それでも、もし「仕事」や「働くこと」に対するイメージがぼにゃりするようならば、「人に喜ばれる」という視点で考えるといいんじゃないかな。自分がした仕事で人に喜んでもらえると、疲れなんてふっとんじゃうからね。
売れているだけはある。好き嫌いが分かれるかもしれないが、私はお勧め。

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)
西原 理恵子

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