その後、ソロもトリオも何度も聴く機会に恵まれ、いつしか多いときは毎年、そうでなくても数年に1回は彼のピアノを聴くのが恒例となっていた。このブログでも2008年のソロコンサートの感想を書いてある。ソロとトリオを交互にやって、それで毎年来日していたのはいつのころの話だっけ。
今回の演奏は果てしなく優しく、そして繊細で、いつも聴いていた彼のピアノがいつもと同じように流れてくるものだった。おそらく本当はもっと激しい彼もいた。だけど、今そこで弾いている彼の姿から出てくる音はあらかじめ決められていた彼の音。約束された世界。
年齢による衰えもあってそうなってしまっているのかもしれなくて、それはそれで悲しいことだけれど、そんなことは誰も気にしないほど、美しく、そして楽しい演奏だった。
ジャズで様式美っていうのは変なことだと思う。特に、弾く曲もその日その時に決めると言われているKeithに対しては失礼なことかもしれない。だけど、今回の演奏はすべてアンコール最後のOnce Upon A Timeにつながるために予定されていたもの。そう思わせるくらい完成された演奏だった。
うつむきながら静かに歩きそしてピアノの前に。客席の緊張。挨拶の際に柔軟体操かと思うくらいに前にだらんと垂らす手。祈るように、そして自分に言い聞かせるように、胸の前で合わせる掌。あぁ、すべてのしぐさが決められたもののよう。
今回が最後のトリオの演奏だという話もあるようだが、大丈夫。いつでもあなたに逢える気がする。
セットリスト / 9月29日 Bunkamuraオーチャードホール
1st
- Broadway Blues
- The Blessing
- I Fall In Love Too Easily
- Tonight
- Some Day My Prince Will Come
- Things Ain't What They Used To Be
- You Won't Forget Me
- G-Blues
- Smoke Gets In Your Eyes
- Straight, No Chaser
- Once Upon A Time