2012年12月3日月曜日

大笑い! 精神医学

書店に平積みされていた「大笑い! 精神医学」という本を買った。4コマ漫画とエッセイ風の軽い文章で構成されているため、30分もあれば読み終えられる。コスパが良いというのか悪いというのか。

表紙に書かれている「精神医学を100%否定する理由」と「医学を疑う時代がとうとう始まった」というキャッチからもわかるように、現代の精神医学を否定する内容が書かれたものだ。

知らなかったのだが、この筆者は「精神科は今日も、やりたい放題」という著作もあり、こちらはベストセラーになったようだ。こちらもいわゆる告発本だ。

この前作の書評などを見ると、賛否両論のようだ。Amazonのカスタマーレビューでも評価は真っ二つだ。新作である本書については、まだ発売間もないこともあり有意な数のレビューはまだ集まっていない。今のところはどちらかというと好意的に受け止めている人が多い模様だ。

筆者自身もこの2冊はシリーズだと書かれていることから、前書も同じような形での告発をしているものと考えて良いだろう(機会があったら読んでみるかもしれない)。

いろいろなエピソードを紹介する形で書かれているが、内容は首尾一貫して、精神医学への批判だ。精神医学をビジネスとして成り立たせるために、製薬会社を筆頭に、精神科医、病院、福祉施設が全員グルになって患者と患者家族を騙していると指摘する。向精神薬やSSRIに代表される抗うつ薬は麻薬と同じ成分で、副作用に苦しみ、依存から抜けられなくなると警告する。発達障害や人格障害などは本来病気でもなんでもなく、カモとなる患者と患者家族を増やすために作られた病気だと言う。

内容も表現もショッキングだ。しかも、書かれていることの多くは事実だ。たとえば、もっとも根本的なところで言うと、精神疾患の多くはその原因が解明されているわけではなく、治療法も確立されていない。このような状態だから、悪徳医師も存在するし、ビジネスの論理が優先させられる(本書ではもっと厳しい「詐欺」や「犯罪」という表現で語られている)。本書では精神医学の生い立ちを紹介することで、その怪しさを明るみに出す。

また、現在の精神薬のほとんどが拠り所とする「モノアミン仮説」も否定されていると筆者は言う。否定されているというのは言い過ぎではないかと思うが、あくまでも仮説に過ぎず、まだ証明されていないし、この説とは矛盾する事象も指摘されている。

つまり、精神医学は指摘されるだけの怪しさを備えているし、実際に被害に合われている方も多くいる。

筆者は精神科医などにかからず、薬にも頼らずに精神疾患を克服することが可能と言う。少しくらいの落ち込みは体を動かすなどの自らの努力で対応可能だと言う。発達障害などの比較的新しい精神疾患はそもそも病気ではないと言う。

前に読んだ 「うつ」を克服する最善の方法  の書評でも書いたのだが、現代の薬による治療を否定することは簡単だ。だが、実際に苦しんでいる人がいて、薬で救われた人がいるのも事実だ。また、本書の中で、そもそも病気ではないのではないかとされている病気にかかった人と接したこともあるが、やはりどう考えても治療が必要ではないかと思われた。

副作用について警鐘を鳴らし、行き過ぎた薬中心の治療を見直すことは良いことだと思うし、精神医学を取り巻く産業の危うさを指摘することも重要だと思う。しかし、苦しむ人たちにとって、その救いになりうる治療を完全に否定してしまうのは正しいのだろうか。

本書では、労働安全衛生法改正(労働者へのメンタルヘルスチェックの義務化)についても否定する。
多くの人は労働メンタルヘルスに対して、しっかり取り組んで何が悪いのかと考えるでしょう。確かにそのメンタルヘルスが労働者側の奴隷扱いを省みるものなら一定の価値はあります。しかしそうは問屋がおろしません。産業医も産業カウンセラーも所詮は「企業の犬」でしかないのが現状です。産業医の大半は精神科医ですし、精神科医でなくても結局精神科医に紹介することになります。その結果、覚醒剤まがいの薬で無理やりハイにしながら、体を壊しながら仕事をするということになります。
ちょっといくらなんでも、これは書きすぎだし、事実誤認も甚だしいと思う。企業内で、うつ病により通常勤務ができなくなる人が増えていることを省みて、うつ病になってしまう前にストレス度を計り、うつ病予備軍の人に対してケア(それも精神科医で薬を処方してもらうなどではなく、ストレスを軽減するための働き方などを提言する)をしようと考えている企業がほとんどだ。

なかなか声を上げられない一種の暗部を明るみに出した勇気ある告白本だとは思うし、薬漬けになっていたり、今まさにされそうになっている人に注意を喚起することにもつながると思うが、不必要なまでにセンセーショナルな書き方で薬による治療を全否定することが正しいことなのかは疑問に思う。

大笑い! 精神医学