2009年11月10日火曜日

就活って何だ 人事部長から学生へ

就活って何だ―人事部長から学生へ (文春新書)
就活って何だ―人事部長から学生へ (文春新書)

著者の森健さんから頂いた一冊。森さんありがとうございました。

今の会社に入って新卒採用にも多少関わるようになったり、学生向けのキャリアトークのようなものに参加させていただくことが多くなったりしたためか、大学生の方と話す機会も増えた。そこで聞く話はなんとも大変な就職活動の話ばかり。

私が学生のころは就職活動を始める時期になって、やっと社会や会社を意識し始めるという感じだった。就職活動を始める時期も4年生になってから。就職協定がまだ残っていたので、本当は8月20日から会社訪問開始なのだが、各社いろいろな名目で実質その前から採用活動は開始していた。それでも、4年生の春からの開始でほぼ十分だった。

業界/会社研究などはするが、インターネットを使うことは一般的ではなかったため、先輩に会うしかないし、その際のアポイントメントも電話でお願いするので、メールでお願いできる今ほど簡単ではない。情報も知識も不足したまま面接に望むということもたびたび。企業側もバブル期だったこともあり大量採用が必要なところも多く、おおらかな面接で済むところも多かった。企業によっては学生を絞り込むというよりも、どうにかして内定をとった学生に逃げられないかということに頭をひねっていて、内定者懇親会とか合宿という名目で泊り込みで他社への就職活動をさせないようにする会社もあった。ハワイやグアムに連れて行ったという会社もあったほどだ。

そんな経験しかしていない身からすると、昨今の就職活動の状況は本当に学生にとって気の毒としか言いようがない。私の時のように高度経済成長をまだ前提としたおおらかなのが良いとは思わないし、学生が社会を早くから意識し真剣に自分のキャリアを考えるのを悪いとは思わないが、エントリーシートを1人で50社とか多い人になると100社近く出しているとか聞くと、もう何かが狂っているとしか思えない。私に相談をしてきていたある男子学生などは、マスコミとITの2つの業界を狙っていたが、IT系は第2次志望のためか、ほとんど研究が出来ていない。あまりにも基礎知識も無いままエントリーシートを書いていたので、なんで自分でもっと調べないのかと聞いてみたところ、100個近いエントリーシートを書く必要があり、1社にそんな時間がかけられないという。時間がかけられずにいい加減なエントリーシートになってしまい、それで落とされてしまうのならば、数出しても仕方ないだろうにとは思うのだが、そんなことも冷静に考えられないくらい彼は焦っているようだった。

この「就活って何だ―人事部長から学生へ」は以下の15社の人事部長からのメッセージをまとめたものだ。
  • 東海旅客鉄道
  • 全日本空輸
  • 三井物産
  • 資生堂
  • 東京海上日動火災保険
  • 三菱東京UFJ銀行
  • サントリーホールディングス
  • 明治製菓
  • 武田薬品工業
  • 日立製作所
  • NTTドコモ
  • バンダイ
  • フジテレビ
  • ベネッセコーポレーション
  • 電通
各社の人事部長(会社によっては人財部という名前のところもあった、人が財産と考えているためだろう)から、採用活動の方針や実際の進め方、学生に望むものが生の声として語られる。方針や日程、各社の特徴などは各社のウェブサイトや説明会などでも情報を得ることができるのかもしれないが、本書では、人事部長の経歴などにも絡めて、本音での「採用」、学生から見ると「就職」に対する考え方を知ることができる。発言は会社を代表する立場としてのものもあれば、個人の価値観に基づくと思うものもあり、どれも興味深い。

誰もが言っていたのが、就活マニュアル通りに行っている人はすぐわかるということ。話せば、演じているのか、本当にそう思っているのかなどはすぐにばれる。また、ビジネスのことについては、いくら勉強しても所詮はにわか知識であり、インターンシップをやっていても自分でプチ起業をしていても、多くの場合はその会社のプロの社員には叶わない。なので、あまり背伸びをせずに等身大の自分で臨むのが良いのだろう。

日本を代表する会社としてのこの15社に共通していたのが、いまだに終身雇用を前提とした採用を考えているところだ。採用する側も失敗を極度に恐れているようだ。この場合の失敗とは、「優秀な人材を採用できない失敗」と「優秀ではない人材を採用してしまう失敗」だ。人材の流動化を前提としていれば、中途でいくらでも優秀な人材は採用できるだろうし、社に向いていない人に社外での機会を検討してもらうことだってできるだろう。終身雇用を前提としていることも、今の新卒時の就職活動をここまで過熱化させてしまっている原因ではないか。

面白いのは、何社かの人事部長が私と同じようなことを言っていたことだ。つまり、「自分のときは、こんなに大変じゃなかった」、「自分は本当にいい加減に就職を決めた」と。みんな自己矛盾を抱えながら、採用活動を行っている。そんな中で救われたのは、フジテレビ河野雄一氏(執行役員人事局長)の次の言葉。
人生の目的はいろいろとあるわけで、入った会社だけで人生が決まるわけではない。結局のところ、自分が棺桶に入るときに「あぁ、いい人生だった」といえればいい。どこの会社に入れるかも大事でですが、そのスタート時点だけで自分の人生を評価してしまうようではあまりにも寂しい。長い視点で仕事と人生を考えることが、人生も仕事も楽しくすると思います。ある意味で、仕事なんて暇つぶし。そういう風に考えることも大事なのかもしれません。
そう。仕事なんて暇つぶし。私が「紐になりたい」というと呆れる人がいるが、仕事が生活を支える手段になっているのにたまに本当に息苦しくなるのだ。その息苦しさを今の学生はすでに就職活動の時に感じていることがあるのかもしれない。

最後の章「マニュアルから脱するための就活五ヶ条」で以下の5つを挙げていた。
  • グローバル
  • 多様性
  • ストレス耐性
  • ビジネス感覚
  • 自分と向き合う
どれも当たり前のことばかりだが、「ストレス耐性」というのがわざわざ取り上げられる(=各社が共通のキーワードとしてあげていた)ということが、今の状況を物語っている。今に日本は就職活動でメンヘラーが続出するようになるんじゃないだろうか。

以前に書いた「就活のバカヤロー」の書評もあわせてどうぞ。